NSN、その真の価値
2009.8.14
TCOに根ざした究極の装備品情報
わが国はNSN(ナショナル・ストック・ナンバー)を保持していない。国産装備品はもとより、FMSなどの装備品の輸入において代替品情報や価格情報などの一部のNSN情報を利用しているに過ぎない。しかしNSNには途方も無いTCO(トータル・コスト・オブ・オーナーシップ)に携わる情報が集積されている。兵站は湯水のごとくお金がかかる。だからこそ最適な装備品行政を行なうためにはTCO的な取得システムの運用が必要となる。言い換えればNSNが途方も無い要素データを集積しているからこそ、装備品取得が最適に運用されることへの証となっているのである。今回はNSNが国の取得予算の削減に大きく寄与するために構築されていることを改めて紹介する。【DCメール】2009年8月15日 No.251
■NSNとは
FLISやNCSはNSNの集合体である。このNSNは米国やNATOを中心に現在では世界の55カ国で採用されている装備品識別の最小単位である。NSNは必ず13桁の番号が付与され、物品名、識別データ、管理コード、参考価格、性能データなど多数の兵站情報が組み込まれている。NSNの数は米国だけで700万件を越すと言われ、NATOやその他の関係国を含めると2000万件にも上る膨大な数である。このNSNの最大の特徴はなんと言ってもこれら加盟国のメーカにより生産される装備品、例えば航空機部品から生活必需品に至るまでの互換品や代替品情報が掲載されていることである。その結果、これら生産財や消費財情報など民間製品の数はNSNの数倍となり数千万件にも上るといわれている。
■NSNの基本的な考え方
FLIS(やNCS)を形成するNSNの基本は単一装備品の識別にある。そのためにすべてのNSNは13桁の数字をもつ独特な番号制度からなっている。これにより加盟諸国におけるシステム共有社会では同一装備品はすべて統一され、同じNSNの元で集約されている。だからWebFLISやNMCRLを使うユーザはNSNを通じて世界の代替品検索を行えるのである。NSNの前4ケタはFSCコード、後ろ9ケタはNIIN( ニンと呼ぶ )と呼ばれ、またNIINの最初の2桁は国別コードになっている。例えば米国で登録されたNSNであれば00あるいは01が与えられる。
ところで最近のWebFLISではNATO諸国によるNSNが目立つようになった。最近の事例ではある上車両用のガスケット( 米国製 )の代替品がドイツのダイムラー社製やスエーデンのBAE社製のガスケットが掲載されている。もちろん材質や形状、寸法や価格はすべて統一されている。これにより例えば米国製のガスケットが枯渇したり、納期に間に合わない場合、ダイムラー社やBAE社製のガスケットが取得されるわけである。このように兵站のグローバル化は加盟諸国が装備品を共有しスピード性、廉価性を追求することとした。
なお残念ながらわが国は正式に加盟していないため、わが国が登録したNSNあるいは代替メーカー品情報は存在しない。今後わが国が加盟した場合、多数の優秀な装備品がNSNを取得することで世界の市場で活躍するばかりでなく、従来から輸入品に頼ってきたNSN部品の取得を国産品NSNにおいて代替することも望まれる。ぜひともわが国の産業政策として早期に実現をしなければならない課題である。
■ところで、なぜNSNの概念が作られたのか。
第二次世界大戦では、個々の機関によって使用された同一物品に異なる名称が付けられていた。当時これらの機関では同一物品を見極めることは難しく、同一名称による物品を共有することはほとんどの場合不可能であった。またこのことは命名が異なるために、同一物品の役割が少なくなり、また重複する状況を生む結果ともなりムダが生じ、戦費も益々増加した。 このように各々の機関が異なる名称で装備品を呼んでいたら、必要な際に別の機関から同じ物品を識別して移動させることは不可能である。そこで米国は類似在庫品の増加を抑制するためには、詳しい装備品特性を比較することが不可欠であることがわかった。 これがNSN概念の創始である。
■ここで改めて、NSNの番号構造を知ってほしい。
だれでもこの番号システム、269ー961ー7766については知っているはずである。これは電話番号システムである。電話番号の3つの個別部分は最初が市外局番であり、第2の部分は交換局番、また3番目の部分は個有の番号である。 NSNはこの電話番号とよく似ている。NSNは13桁のコードである。6240-00-357-7976 。NSNの最初の4つの数字は補給分類(FSC)として知られている。例えば、6240は電灯用のFSCである。FSCは例えば蛍光灯や白熱灯、水銀灯およびナトリウム灯のように同一物品をグループ化するために使用されている。次の2つの数字は国別コードである。装備品にNSNの割り当てを要求した国を示しているのである。残りの7桁の数字はNSNに連続して割り当てられる固有のコードである。
■そこで、NSNに埋め込まれた要素データを紹介する。
NSNには装備品を定義するための広範囲な兵站データが埋め込まれている。これらのデータには、品名、メーカー部品番号、代替品データ、価格情報、物理的性能特性、梱包データ、特殊取扱データ、保管データ、在庫期間データ、廃棄処分データ、その他管理データである。そしてNSNのライフサイクルにわたってメーカーの移動や価格の変動、部品番号の変更、その他装備品の支援や兵站データや特性に影響する最新情報を登録するために常時データ更新されるのである。
■NSNの本当の価値とは
FLISなど兵站情報の最大の目的は、調達が迅速に行なわれることで装備品の欠落時間を短縮できることであるが、本当の価値とはNSNに取り込まれた各種要素データにより、在庫の確認、保存期間の識別、交換・代用可能な供給物品の識別、利用可能な代用品の最大限使用、価格情報の提供により防衛予算の最適化、武器システムのライフ・サイクルを拡張し、設計、製造および修理プロセスのためのサイクル・タイムの改善、 機密情報を保護し、多数の調達業者の登録、重複物品の識別援助などが最適に行なえることである。
恐らくNSNの最も重要で最も遠大なメリットは、装備品の取得要求から保守、そして廃棄に至るまでの総合コスト管理を提供するということにある。 NSNを集積したFLISやNCSは兵站情報としてWebFLISやNMCRLを通じて世界的に使用され、NSNはもはや兵站の国際語となったと言われている。今やNSNはTCOの実現を具体化し、装備品の初期コストに加えてランニング・コストを含めた総合コストの削減を可能する戦略的な概念として今後益々進化を遂げるものとして期待されている。米国に端を発した装備品取得に纏わるNSNの総合コスト概念はNATO諸国や国連(UN)における物品取得のオプティマム・ツールとして世界最大の利用者を抱えるまでに膨れ上がっているという。わが国が本格的にNSNを取り込むまでには、まだまだ解決しなければならない難題が待ち構えているが、TCOを掲げるわが国防衛装備品行政にとってNSNの運用は避けては通れないデファクト・スタンダードであることは間違いない。
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