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漂流する日本メーカの装備品

2009.11.30

世界 27カ国でNSN登録 
世界27カ国で日本メーカによるNSN装備品が登録されていることがわかった。NATOが世界の38カ国に登録許可をしている全NSN装備品は1600万件にも及ぶとされているが、弊社が入手したNATOからの報告によると、そのうちの27カ国の登録品に日本のメーカによるNSN装備品が存在することがわかった。現在日本はNATOには加盟しておらず、またNCS(NATO装備品システム)にも参加していない。したがってこれら日本メーカは海外拠点のある国の機関を通じて登録をしているということになる。【DCメール】 2009年12月1日 No.258

■日本のメーカが登録するNSN装備品事情
 
 NATOからの報告によると日本のメーカがNATO関連諸国において登録した装備品件数は次のとおりである。なお、総数は約82000件にもおよぶ。(2009年NATO調べ)
オーストラリア       14091
米国               12230
フランス             9648
カナダ              8773
イギリス             6236
トルコ               4538
イタリア             4474
デンマーク           4295
ノルウェー          3884
ニュージーランド      3744
スペイン             3226
オランダ             1969
ベルギー            1462
ドイツ              1134
ポルトガル           786
ブラジル             559
韓国                 378
チェコ                222
オーストリア           133
シンガポール           77
ハンガリー             72
ブルガリア             41
ギリシャ               27
エストニア             25
スロバキア              7
リトアニア               2
ポーランド               1
 
 
■海外27カ国でNSN登録、漂流する日本メーカのNSN装備品
 前出したように日本のメーカの装備品登録が27カ国のNCB(各国のNSN登録機関)で約8万2千件にもおよぶことがわかった。もっともこの数はNCSに登録された世界のNSN1600万件の0.5%でしかない。しかしこれらの日本企業は他国のNBC(登録機関)を通じて登録している。具体的にいうと米国やフランス、あるいは韓国やオーストラリアに在するわが国装備品メーカが当該国のNCBを通じて自らが製造(あるいは販売)する装備品をNCSに登録していることになる。登録するためには事前に企業コード(NCAGE)の取得をしなければならないが輸出業務や海外進出をしている装備品メーカのほとんどは取得済みである。それよりもこのようにして日本で登録できない装備品が他国のみで登録されている現状はまさに「流浪の民のごとし」で、早く日本で登録できる状況を構築しなければ事業としての根幹が保てない。
 
 
■ところで何故NATO装備品データベースなのか
 今NATO装備品システム(NCS)は世界最大の装備品データベースとして、世界38カ国、1600万件のNSN、3300万種類のメーカー装備品が収録されている。このNCSの基本は米国のFLISであるが、FLISは米国登録のみであり、NCSはまちがいなく世界最大の製品データベースであるといえる。NCSやFLISなど兵站情報の最大の目的は調達が迅速に行なわれることで装備品の欠落時間(ダウンタイム)を短縮できることであるが、本当の価値とはNSNに取り込まれた各種要素データにより、在庫の確認、保存期間の識別、交換・代用可能な供給物品の識別、利用可能な代用品の最大限使用、価格情報の提供により防衛予算の最適化、武器システムのライフ・サイクルを拡張し、設計、製造および修理プロセスのためのサイクル・タイムの改善、 機密情報を保護し、多数の調達業者の登録、重複物品の識別援助など兵站業務の最適化にある。
 
 NATOのデータベースの最も遠大なメリットは、装備品市場が従来の米国一辺倒からNATO諸国ならびにアジア太平洋地域の諸国を巻き込んで多極化していることで装備品の取得要求から保守、そして廃棄に至るまでのライフ・サイクル管理を提供することが可能になっている点にある。そのDNAと呼ばれるNSNを集積したNCSは兵站情報としてNMCRLを通じて世界的に使用され、もはや兵站の国際語となっている。そこではNSNはトータル・コスト・オブ・オーナーシップ(TCO)の実現を具体化し、装備品の初期コストに加えてランニング・コストを含めた総合コストの削減を可能する戦略的な概念として今後益々進化を遂げるものとして期待されている。
 DODによればNSNの総合コスト概念はNATO諸国や国連(UN)における物品取得のオプティマム・ツールとして世界最大の利用者を抱えるまでに膨れ上がっているという。WebFLISを管理するDLISもわが国が本格的にNCSに参入し、NCBを創設しNSNを取り込むことを提唱している。LCCを掲げるわが国防衛装備行政にとって本格的なNSNの運用はもはや避けては通れないデファクト・スタンダードなのである。
 
 
■ところで日本はどうなっているか
 米国やNATOでは日本は集団的自衛権の解釈問題など、政治的な意味合いでNCSに参加表明はしていないと報じられている。
 しかし、このことが逆に日本の輸入装備品不当価格問題や装備品仕分け等というコスト原因を作り出していることはまったく報じられていない。国産品ではない自衛隊員の制服が国防の士気にかかわるなどの精神論は別にして、装備品システムに対する理解不足が将に浮き彫りにされているのである。もし仮に、日本が韓国のように10年早くNCSに参加していたなら、また自ら創設したNBCが管理を行なっているのなら、このような誤解や問題は起こりえないだけに非常に残念である。世界はすでに生産から廃棄までを含む装備品ビジネスはお互いに多国間で共有・管理されたものとなりつつあり、日本のように自国内で防衛、外務、経産、国交省など複数の監督省庁が綱引きをしているものとは大きく異なる。
 また、日本の装備品登録を自らが行なえないことが装備業界が世界から孤立し、育たない遠因ともなっていることのほうが問題である。このことは日本の秀逸な資材や部品、需品などの装備品の世界市場でのビジネス機会の損失を意味し、逆に高額で、品質や納期に問題の多い他国品を購入しなければならない背景となっている。
 日本では装備品というと単純に武器類など軍需品を連想するが、FLISやNCSの世界では1600万種類あるNSNの、またその下にある3300万種類の製品のほんの一部でしかない。大多数は素材であり、電子部品であり、機構部品であり、そしてまた被服などの需品なのである。NATOによれば今後はさらに国連(UN)が加盟し、また未加盟国を巻き込み、また装備品以外の製品分野もを取り込む壮大な計画があるという。そのためには、参加国はNATOの定めるTIER1、TIER2の整備能力を構築しなければならない。わが国はこの分野において10年は遅れているといわれる。
 装備品は膨大且つ細かい。まさに鉛筆からミサイルまでを識別化した装備品体系(FSC)である。それを一言で武器輸出に喩えるような時代感覚ではとてもなし得ない。なお現在徐々にNCSを本格的に運用する兆しがあるが、それでもTIER2への道は長く、険しい。
 なお、このたび報告された27カ国での日本メーカの装備品の詳細は明らかではないが、登録される全世界の装備品件数に比べてあまりにも少ないし、他国で登録するしかないという現状をなんとか打開しなければならない。その意味でこの問題を取り扱う行政府がはっきりしないことが原因のひとつである。やはり装備品を体系化し、世界と伍して切り開いていくためには米国のDLAや韓国のDAPAのような装備品をビジネスとして標榜できる専門家チームの育成と創設が今まさに必要である。
 
 
■ちなみにNSNとは 
 FLISやNCSはNSNの集合体である。このNSNは米国やNATOを中心に現在では世界の55カ国で採用されている装備品識別の最小単位である。NSNは必ず13桁の番号が付与され、物品名、識別データ、管理コード、参考価格、性能データなど多数の兵站情報が組み込まれている。NSNの数は米国だけで700万件を越すと言われ、NATOやその他の関係国を含めると1600万件にも上る膨大な数である。
 このNSNの最大の特徴はなんと言ってもこれら加盟国のメーカにより生産される装備品、例えば航空機部品から生活必需品に至るまでの互換品や代替品情報が掲載されていることである。その結果、これら生産財や消費財情報など民間製品の数はNSNの数倍となり3300万件にも上るといわれている。
 第二次世界大戦では、個々の機関によって使用された同一物品に異なる名称が付けられていた。当時これらの機関では同一物品を見極めることは難しく、同一名称による物品を共有することはほとんどの場合不可能であった。またこのことは命名が異なるために、同一物品の役割が少なくなり、また重複する状況を生む結果ともなりムダが生じ、戦費も益々増加した。
 このように各々の機関が異なる名称で装備品を呼んでいたら、必要な際に別の機関から同じ物品を識別して移動させることは不可能である。そこで米国は類似在庫品の増加を抑制するためには、詳しい装備品特性を比較することが不可欠であることがわかった。 これがNSN概念の創始である。
 だれでも電話番号システム、269-961-7766については知っているはずである。電話番号の3つの個別部分は最初が市外局番であり、第2の部分は交換局番、また3番目の部分は個有の番号である。
 NSNはこの電話番号とよく似ている。NSNは13桁のコードである。6240-00-357-7976。NSNの最初の4つの数字は補給分類(FSC)として知られている。例えば、6240は電灯用のFSCである。FSCは例えば蛍光灯や白熱灯、水銀灯およびナトリウム灯のように同一物品をグループ化するために使用されている。次の2つの数字は国別コードである。装備品にNSNの割り当てを要求した国を示しているのである。残りの7桁の数字はNSNに連続して割り当てられる固有のコードである。
 NSNには装備品を定義するための広範囲な兵站データが埋め込まれている。これらのデータには、品名、メーカー部品番号、代替品データ、価格情報、物理的性能特性、梱包データ、特殊取扱データ、保管データ、在庫期間データ、廃棄処分データ、その他管理データである。そしてNSNのライフサイクルにわたってメーカーの移動や価格の変動、部品番号の変更、その他装備品の支援や兵站データや特性に影響する最新情報を登録するために常時データ更新されるのである。
 FLISなど兵站情報の最大の目的は、調達が迅速に行なわれることで装備品の欠落時間を短縮できることであるが、本当の価値とはNSNに取り込まれた各種要素データにより、在庫の確認、保存期間の識別、交換・代用可能な供給物品の識別、利用可能な代用品の最大限使用、価格情報の提供により防衛予算の最適化、武器システムのライフ・サイクルを拡張し、設計、製造および修理プロセスのためのサイクル・タイムの改善、 機密情報を保護し、多数の調達業者の登録、重複物品の識別援助などが最適に行なえることである。
 
 
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