次世代 ロジスティックス・システムへの道
2010.7.14
ーロジスティックス先進諸国の挑戦-
DLISによればFLISは今、大きな転換期を迎えている。現在のFLISではデータ構造が古く、次世代ロジスティックス構想の要と言われるPBL(パフォーマンス型ロジスティックス)の遂行ができないためである。またシステム構築においても急速に拡大するIT化に即応できないことが明らかになった。この問題はそのままNCSにも言えることである。現在、欧米諸国は競ってロジスティックス・システムのモダニゼーション(近代化)を打ち出している。またその流れはオーストラリアや韓国を筆頭とするアジア諸国にも急速な広がりを見せている。今回はこれらロジスティックス先進諸国の挑戦を追ってみた。(DCメール 2010年7月15日 No.273)
TCO,グローバル化そしてIT化への挑戦
1952年に米国公法82-436条ではカタログ制度の導入が義務付けされた。FLISの創始である。単一品目を識別することで購入から廃棄に至るまで全ての機能(購入、運用、保管、配布を含む)を用いることが制度上で確立されたのである。現在FLISはDODを含めた米国政府のロジスティックス業務を維持する上で欠かすことのできないMC(装備品カタログデータベース)となっている。とりわけロジスティックスのDNAといわれるNSN(ナショナル物品番号)概念はあらゆる装備品のライフ・サイクル(供給から廃棄にいたる)における識別情報を含有するものとして知らない者はいない。そしてこのFLISの思想を受け継いだNCSもまたFLISと同じような道を歩んできたのである。
ところが21世紀に入ると時代は急速に変化し始めた。従来型のFLISやNCSの考え方ではもはや装備品取得の最適ツールとしてはもちろんのこと、ロジスティックス・システムの維持管理もできなくなった。特に米国が打ち出したPBL(次世代向けパフォーマンス型ロジスティックス)政策には対応が難しく、またグローバル化した分散型ロジスティックス・フォーメーションにより即応実装が極めて困難になるなど新しい時代に向けたシステム再構築の気運が急激に高まっていったのである。
このPBLとはTCO(トータル・コスト・オブ・オーナーシップ)に基づき装備品の初期コスト(調達コスト)とランニング・コスト(運用・保管・廃棄コスト)を含めた総合コストの概念を導入し、装備品の取得を従来のような物品や役務に求めるのではなく、性能や能力を維持する保証を求める概念として登場した。つまりメーカは個々の装備品の対価に対して支払われるのではなく、エンド・アイテムの性能や能力を維持するための保証(ギャランティ)として対価を請けるというものである。
また次世代のロジスティックス・システムにとって最も重要で最も遠大なメリットは、地球規模における装備品取得の要求がライフ・サイクルを基本としてなされるわけで、こういった新しい要求に対して次世代FLISやNCSは応えていかなければならない。
ロジスティックス先進諸国の挑戦
そういった意味でFLISやNCSなど従来型ロジスティックス・システムの問題点はなんといっても新しい要求に対する信頼性の欠如とリード・タイムの長さ、そして膨張するコストが挙げられている。例えば現在、NATO各国にあるNCB(ロジスティックス管理機構)がメーカからデータを吸い上げた際に必ず起こるデータの欠落や誤記による不完全データの提供によりシステム自体の信頼性が損なわれている現実がある。
またそのために時間を多く費やし、掛かる費用は膨大を極める。DLISやNATOのAC/135では10年も前からシステム再構築のために全自動化、授受データの信頼性の回復、そして地球規模システムへの多様化など国際標準化戦略や民間工業界との協力強化などを通じて最重要課題としてきた。
特に米国の電子商取引の推進母体であるECCMAと手を組んでISO8000とISO22745をISOに提案し、データ特性の授受における電子化や自動化を促進させ、より早く、よりよく、そして安いデータ構築を成し遂げることを目論んできた。昨年発表されたSmart Step Codification Phase IIIでは、当初フェーズ1(第一段階)でSTEPファイルを利用して装備品データベースの再構築を計画したが、フェーズ2ではISO22745とISO8000を組み込んだSmart Step Codificationという概念を想起した。そしてこのたびフェーズ3(第3段階)としていよいよ本格的な次世代NCSの実装試験段階に入った。この総合的な実装試験は英国のBAE Combat Systems社とNATO AC/135の間でテリヤー型支援戦車(Terrier Combat Support Vehicle)の装備品データ構築についておこなわれた。
このように現在米英を中心とするNATO諸国やTier2国であるオーストラリアや韓国では国際標準化されたeOTDを組み込んだ電子データ変換システムの構築を産官学共同で研究している。また別の国々ではECCMAベンダによる実装試験に取り組んでいるのである。
ちなみにこのeOTDはDODの傘下にあるDLISとECCMAの間で誕生したいわゆる異なった工業技術データ・フォーマット同士の交換や転換を可能にするアーキテクトをもち、膨大なデータを維持管理するFLISやNCSの信頼性を高め、スピードアップさせ、総合コストを大幅に削減する米国産官が一体化したプロジェクトであった。また従来からの品質管理の国際標準であるISO9000に準えて、データ品質管理基準として新しくISO8000を誕生させることになったのである。
このようにして現在世界のロジスティックス先進諸国ではNATOを中心とした次世代ロジスティックス・システムの構築を急いでおり、2013年までには遅くとも新しいコンポーネント(要素)を組み込んだ次世代システムの稼動を目論んでいる。
ここに一枚の有名な風刺漫画がある。倉庫で装備品を見つけたユーザが指差して叫んでいる。そばでコンピュータの画面を見ている管理人がこう呟いた。「指なんか差したってダメだよ。コンピュータにはその装備品は記載されてないんだから・・・」。まさに現在のロジスティックス・システムの現状は斯くの如しであるという。この風刺漫画は各国のロジスティシャンに大人気である。 だから早く問題解決をしなければならないと。
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