【ニュース&コメンタリー】F-35に見るPBL政策
2010.8.16
先ごろわが国が次期主力戦闘機候補であるF-35の情報開示を米国政府に請求した記事が掲載された。F-35はそのステルス性をもって世界各国に秋波を送っているが、実はこのF-35は米国政府が主導し官民一体となって試みる最初にして最大の統合PBLプロジェクトの産物である。そもそもF-35の共同開発、共同運用を合意した主な国はいわゆるNATO主要国とそのTier2諸国で、F-35の初期構想はPBLなどの次世代型ロジスティクス政策を可能にするNATOとそのTIER2諸国等、ロジスティクス先進国による共同プロジェクトであるといえよう。
PBLは米国政府が構想する兵器システム(この場合はF-35)のライフ・タイム・コストのうち運用維持(ランニング)コストを大幅に低減させ、開発製造などの初期コストと同程度にすることで産業界の協力と自主努力を要請するものである。従来からのレガシー(遺産)システムを「近代化」させるような伝統的なアプローチと異なって、PBLは全体論的に兵器システム、アセンブリ、部品、およびコンポーネントのサポートを管理し、レディネスを達成するためにとにかくシステムに組み込まれる部品の「枯渇」を緩和させるものとして有効である。そしてその結果、民間企業との長期契約を通して、いわゆる部品や製品の取得よりはむしろパフォーマンス(性能・履行)の取得という新しい概念に立っている。
確かに従来からのシステムを近代化させるだけでは年率10%以上増加するといわれるランニング・コストやいわゆる米国政府が悲願として掲げるレディネス(システムの作動可能状態での待機)の低下を招くことは必至である。一般にライフ・タイム・コストの概念では初期コストの2倍はかかるというランニング・コストを如何に低減化させるかが米国政府の取得改革の原点であり、一説にはF-35の初期構想ではともに1:1の比率までに落とすという。信頼性の向上はもちろんのこと、年々上昇するランニング・コストを一定にし、また一方では運用維持において収益の鈍化を余儀なくされてきた民間企業をシステムの寿命が終了するまで安定した収益を確保できる機会を与えるというのがPBLの概念である。
これはしかし当然ながら安定した収益に応じた責任というものが求められ、システムサポートを確実におこなうことの「履行保証」を求めているところがPBL契約(PBCという)の特徴である。このPBCは理想的には5―15年の長期にわたり契約企業は先を見越して例えばDMSMSのような枯渇による誘因対策を施し必要な性能を維持しなければならない。このようにしてF-35はシステム・リスクを低下させるためにライフ・タイム調達や契約業者との長期契約や再設計のための投資利益率などDMSMS緩和策の努力が求められているのである。
こう考えてくると、従来システムとPBLシステムの違いは寿命が嵩むごとに増加する従来型のランニング・コストに比べPBLでは毎年一定のコストで維持管理することで節約とする考えに立っている。またこれによりPBLはレディネスの向上、フットプリント(派生物)の削減および応答時間のスピードアップなど従来の兵器システムとは違った概念をもつものとして次世代型ロジスティクスといわれる。
ところで今DODロジスティクスではDMSMSが兵器システムや装置等の寿命を危険にさらす可能性があるものとして問題視されている。一般に民生品では需要が下がったり古くなった技術製品は廃止させるが、DODでは逆に兵器システムの寿命を長引かせようとしている。 だから修理部品や材料がシステムの寿命が来るまえに枯渇すると致命的な問題が引き起こされる。要するにこのDMSMSが顕在化するとシステムサポートの脅威となるからである。DODはDMSMS対策マネージャ(PM)を設置しシステムとしてDMSMSを解決するためにアプローチし始めた。問題が表面化した後にDMSMSを報告するか、先を見越してDMSMS問題を緩和するかであるが、当然ながらDOD政策は先を見越すアプローチを定めている。
またロジスティクス・ツールのひとつである装備品DBのFLISは今大きな転換期を迎えている。それは現在のFLISではデータ構造が古く、次世代ロジスティクス構想の要と言われるPBLの遂行ができないためである。PBLは前述の通りTCOに基づき装備品の初期コストとランニング・コストを含めた総合コストの概念を導入し、装備品の取得を従来のような物品や役務に求めるのではなく、性能や能力を維持する履行保証を求める概念として登場したものだがFLISやNCSなど従来型ロジスティクス・ツールは新しい要求に対する信頼性の欠如とリード・タイムの長さ、そして膨張するコストなどによりPBLのような次世代型ロジスティクスには対応ができていない。そこで現在DODやNATOではTLCSMやPBLの政策を取り込んで実装試験をおこなっている。これら次世代型といわれるロジスティクス・ツールはECCMAと手を組んでISO8000やISO22745を国際標準化させ、同盟諸国間でデータ特性の授受を電子化しまた自動化を促進させている。昨年発表したSmart Step Codification Phase IIIでは民間企業と政府間での本格的な兵器システムの装備品データ構築の実装試験がおこなわれている。
このようにして米国を中心としたNATO主要国やそのTier2諸国間では次世代型ロジスティクス・システムの構築を急いでおり、こういった流れの中でF-35は最大のPBLプロジェクトとして確実に成果を挙げている。わが国はようやくNATO Tier1加盟に向けて取り組む段階である。今後F-35の導入想定にはより十分なロジスティクス分野への躍進ー取分けPBL対策を含む総合的な次世代型といわれるロジスティクス環境の整備を講じる必要がある。レディネスが整わないかぎりステルスも役には立たないからである。
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