【Materiel Readiness】
2010.9.29
次世代ロジスティクス・システムのキーワード
次世代ロジスティクス・システムのあり方を研究している弊社ではDODからMateriel Readiness(以下、MR)について習熟する旨のアドバイスを受けた。わが国では未だ咀嚼(そしゃく)されていないMRであるが現在のロジスティクス・システムを語る上で大変重要なキーワードであるという。以前わが国の次期主力戦闘機候補として挙がったF-35がPBLプロジェクトの産物であると報告したが、このPBLもMR要素のひとつである。そこで今回はMRの概念や具体的な要素(Enablers)について探った。(DCメール No.278 2010年10月1日号)
Materiel Readiness(MR)についての考察
Materiel Readinessは日本語で「マテリエル・レディネス」と称する。Materiel はフランス語で装備品、軍需品を指すが英語のMaterialとは異なる。わが国ではMateriel を未だ認知していないのでここでは取り敢えず「兵器システムを含む広義の装備品」としておく。なお英語のMaterialと類似しているために誤用されるケースがあるが注意されたい。
またReadinessも捕らえにくい用語であるがロジスティクスでは「システムの作動可能状態での待機、即応性」と解釈できる。そこでこのMRとは兵器システムを含むあらゆる装備品システムの作動可能状態での待機、即応性を意味する用語となる。
500以上もの艦船、16、000にも上る航空機、1000もの戦略誘導武器そして250,000以上もの陸上車両を常時作動状態で待機させるためにDODは組織を横断的に改め、国防副次官補(ADUSD(L&MR)/MR&MP)の下に統合・集約させた。これにより武器システムと呼ばれる全ての航空機や艦船などの保守、システム支援は統合されたロジスティクス・システムのもと常時作動可能な体制で維持、持続されるような指揮系統となった。
部品の枯渇問題から保守、修理のトラブルにいたるまで装備品や兵器システムをライフタイムで考えるとあまりにも問題が山積している。そしてどの問題ひとつを取ってみても無視はできない。DODではこれら分散した要素をMRという言葉で集約し、統合化を図ることで問題解決に臨んでいるのである。
また米国はNATOロジスティクスに対してもMRを要請することで今後共有されることになろう。米国を中心としたNATO主要国やそのTier2諸国では現在次世代型ロジスティクス・システムの構築を急いでいるが、このMRが整わないかぎり秀逸な兵器システムもガラクタ同然にすぎないことを習熟させられるのである。
そこで以下はレディネスを達成するためにMRに集約した主なプロジェクトを紹介しよう。
DMSMS(Diminishing Manufacturing Sources & Material Shortages)
DODはDMSMSが兵器システムや装置等の寿命を危険にさらす可能性があるものとして重要視している。一般に民生品では需要が下がったり古くなった技術製品は廃止させるが、DODではむしろ兵器システムの寿命を長引かせようとしているからである。 そのために修理部品や材料がシステム寿命が来るまえに枯渇すると致命的な問題が引き起こされることを危惧している。DMSMSはこういった従来部品やメーカの枯渇問題に焦点を当てた救済プログラムとして顕在化することの脅威を排除している。DODではDMSMS対策マネージャ(PM)を設置しシステムとしてDMSMSを解決するためのアプローチを展開している。枯渇問題が表面化した後に報告するか、先を見越して問題を緩和するかであるが、当然ながらDOD政策は先を見越すアプローチを定めているとしている。
RFID(Radio Frequency Identification)
RFIDタグは近年日本でも流行しているICカードと広義において同類語と思っていい。実際は分類が複雑で多くの異なった機能や機構をもった各種RFIDだが、なかでもDODで使用されるパッシブRFICタグは安価であり、また外部からのリーダによりタグ内部の整流回路が駆動し記録情報を読み取ることができるスグレモノであるとされている。そこでDODでは全ての貨物、荷物などに付帯するタグ( 荷札 )をRFID方式に切り替え、その規則( DFAR252.211-7006 )をもって全ての入札公示の際の規定にその旨を記載することとしている。これにより全ての集荷業務はもちろん検査、輸出入や保安業務がより一段と可視化され全装備品の物流がリアルタイムで一目でわかるセキュリティ強化の一環策ともいえよう。
PBL(Performance based Logistics)
PBLは米国政府が構想する兵器システムのライフ・タイム・コストのうち運用維持(ランニング)コストを大幅に低減させ、開発製造などの初期コストと同程度にすることで産業界の協力と自主努力を要請するものである。従来からのレガシーシステムを「近代化」させるような伝統的なアプローチと異なって、PBLは全体論的に兵器システム、アセンブリ、部品、およびコンポーネントのサポートを管理し、レディネスを達成するためにとにかくシステムに組み込まれる部品の「枯渇」を緩和させるものとして有効である。そしてその結果、民間企業との長期契約を通して、いわゆる部品や製品の取得よりはむしろ成果取得という新しい概念に立っている。
確かに従来からのシステムを近代化させるだけでは年率10%以上増加するといわれるランニング・コストやいわゆる米国政府が悲願として掲げるシステムの作動可能状態での待機の低下を招くことは避けられない。一般にライフ・タイム・コストの概念では初期コストの2倍はかかるというランニング・コストを如何に低減化させるかが米国政府の取得改革の原点であり、例えばF-35の初期構想ではともに1:1の比率までに落とすという。信頼性の向上はもちろんのこと、年々上昇するランニング・コストを一定にし、また一方では運用維持において収益の鈍化を余儀なくされてきた民間企業をシステムの寿命が終了するまで安定した収益を確保できる機会を与えるというのがPBLの概念である。
しかし当然ながら安定した収益に応じた責任というものが求められ、システムサポートを確実におこなうことの「履行保証」を求めているところがPBL契約(PBCという)の特徴である。このPBCは理想的には5―15年の長期にわたり契約企業は先を見越して例えば上記のDMSMSのような枯渇が原因とならないような対策を施し必要な性能を維持しなければならない。このようにしてシステム・リスクを低下させるためにラフ・タイム調達や契約業者との長期契約や再設計のための投資利益率などDMSMS緩和策の努力が求められているのである。
なおDODはMR専用のウェブサイトを用意してその効用について広く啓蒙している。
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