NATOとECCMA③
2011.1.12
【最新情報】次世代NCS実装試験SSC3
NATO装備品データベース(NCS)の次世代化を推進するAC/135委員会は、2009年に発表したSSC3(Smart Step Codification Phase III)の最新動向を伝えてきた。米英を中心とするNATO主要国や豪・韓などTier2加盟国は多種多様な装備品データの統一化、共通化を余儀なくされており、中でも処理スピードの改善や大幅なコスト削減を可能にする次世代自動化システムはフェーズ1でSTEPファイルを利用して再構築を図り、フェーズ2では新たに国際標準化させたISO22745とISO8000を組み込んだSSC(Smart Step Codification)概念を創起した。そして今やフェーズ3においてその実装試験がおこなわれている。なおわが国は防衛省はもとより経産省においてもNCSに関与したISO8000やISO22745の研究が立ち遅れており、産官学を通じて次世代ロジスティクス・システムを論じる場が無い。この新しい世界標準のデータ品質管理基準に則った装備品データベース構築の研究に着手しなければ近い将来に必ずや国産部品の枯渇という不測の事態を招く結果ともなろう。今回はNATOとECCMAによるSSC3実装試験の進捗状況を紹介する。(DCメール 2011年1月15日 No.285)
■次世代NCSーSSC3の最新動向
NATOによるSSC3(Smart Step Codification Phase III)は新しく国際標準となったISO8000に準拠した処理方式により装備品の原データから創生できることが実証された。またSSC3プロジェクトでは同じく国際標準となったISO22745による変換処理方法が効果的にNCSのセグメントVとセグメントCを完成することができ、類別や識別業務の大幅削減を達成することができた。これにより英国の場合平均処理業務時間がISO22745ベースでは10分となり、従来からの50分を大幅に削減することとなった。
そこでSSC3の本格的な稼動とeOTDによる実践的な利用を促進させるために今後12ヶ月間にわたりAC/135はECCMA公認のメンバーとなる予定である。またISO22745の対オントロジー間処理は引き続き試験中であるが、そのためには2つのオントロジーがまず翻訳されなければならない。これら翻訳処理はオントロジーの原型を無視して全てが自動的に処理されるような厳格な管理と制御が要求されるものとなろう。
これはレイマンの喩えのごとくフランス語の話し手と英語の話し手が同時にしゃべりながら理解しあえるようなものである。AC/135は引き続き原データ構築プロジェクトの継続することを推奨している。なお次の段階ではeOTDマスター・データ・オントロジー管理システムを通じたAC/135オントロジーと他のeOTDオントロジーとのマッピング生成に焦点がうつるだろうとされている。
■前回までの経緯
総合的なSSC3の実装試験が英国のBAE Combat Systems社とNATO AC/135間でテリヤー型支援戦車(Terrier Combat Support Vehicle)装備品データ構築についておこなわれた。データ要求をする英国NCB(英国NCS管理機構)はデータ提供するBAEシステム社に対して製品ID(識別)やRN(メーカ品番)などのデータ要求項目をeOTD-q-XML(ISO22745-35)形式によりデータ送出した。またそれを受理したBAEと関連会社側は保有データをNCB要求にそったeOTD-r-XML(ISO22745-40)形式でNCBに再送出した。NCBではデータ受理のあと規定されたその他諸元を追加し、新たにNSNを振り分け、最後に総合データとしてBAE社と双方で共有することができた。この支援戦車装備品データの実装試験の結果は従来型のNCS登録システムの完全記述率が平均16%であったのに比べて60%に上昇、また完全記述持間も従来型が平均50分であったのが10分に大幅に短縮された。NATOではこの結果を受けてISO22745/8000方式によるNCSシステムデータ更新は数百万ドルの削減と画期的なデータ信頼性の向上に寄与したと評価した。またBAE社でも従来のコストの半分で新規品目の登録ができ数十万ポンドの節約につながったと評価した。このように次世代装備品NCSシステムは国際規格に則った電子データ交換形式により、従来型システムによる経済損失を大幅に防止することが実証されたことになる。なおNATOのAC/135委員会ではその他のNATO諸国やスポンサー諸国、ベルギー、チェコ、フィンランド、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランドやロシアなどにも波及させて実装試験を推進させていくという。
■次世代NCSとは
米英はもちろんのこと、近隣の韓国やオーストラリアまでもが加盟している世界の56カ国が運用するNCS(NATO装備品データベース )は今や1600万件を超えるNSN( National Stock Number )を有している。そしてこのNSNには3300万件もの生きた製品データ(仕様や技術特性データ)が組み込まれており、NATO諸国が国内外で活躍するあらゆる補給装備品の代替品やセカンドソース情報など補給管理には欠かせない共通の情報源となっている。これらのデータ管理はNCSを運用管理するNATO,AC/135委員会で、この膨大且つ多国籍、多種多様な装備品データを一手に引き受けている。ちなみに世界中の装備品データをひとつのNSNに組み込むという発想は、元来米国で誕生したものであるが、最も重要で最も遠大なメリットは装備品の取得要求から保守、そして廃棄に至るまでのライフ・サイクル管理をひとつのNSNが提供するということにある。 このNSNを集積したFLISやNCSは装備品データベースとしてWebFLISやNMCRLを通じて世界中に提供されている。
NSNは世界の架け橋、ロジスティックスのDNAとも呼ばれている。しかしながら将に世界に共通した製品データベースの構築、そしてその維持管理にはデータの追加・削除・廃棄などの登録業務を含め複雑多岐を極めている。それが結果としてリアルタイムなNATO補給業務に悪影響を及ぼすことになった。また膨大な経費はデータの信頼性を求めるたびに高騰していった。NATOの主要国でもある
米国は自国向けにFLIS(米国装備品データベースでNCSの元祖)を構築しているが当然ながらNATOと同様の問題を抱えている。そこでECCMA(米国電子商取引コード管理団体)の提案を引き入れ、10年前から新しい形式による装備品データベースの構築のために米国やNATOのみならず世界各国を対象にした国際標準化戦略を目論んだわけである。
このように米英が中心となって推進しているNATO次世代NCSは、ECCMAが提唱するデータ品質管理の国際標準化戦略と相まっていよいよ具体的な実装試験段階に入ってきた。NATOによればその他の参加国もメーカと政府間でISO22745/8000をベースにした取り組みが開始された。今や各国の補給活動は国際規格化され共通化した装備品データ形式による高信頼性データの運用が当たり前になりつつある。高信頼性、リアルタイム、且つコスト削減を可能にする次世代NCSはいよいよ実装段階(フェーズIII)から実践段階に入りつつあるといわれる。
■ わが国の現状
わが国は現在正式なNATO援助(sponsorship)国ではない。しかしNATO主催のNCS定期会合にオブザーバとして出席しており、こういった動向をその端々で察知している。世界を席巻する装備品の共通化、補給業務の統合化は米国を中心として急速に進化しており、隣国の韓国ではすでに産官学が一体となってこの次世代装備品システムの研究に着手している。現在わが国では正式なTier1加盟に向けてその準備を進めているとのことであるが、自衛隊が保有する170万品目ともいわれるわが国防衛装備品データのNSN化、国際共通化は真の同盟の証ともいうべきテーマであり、また今後のわが国防衛産業界の浮沈をかけた最重要課題である。
最近日米、日豪、日韓によるACSA協定の広がりがマスコミを通じて国民に知らされるところとなったが、すでに米国を中心としたNATO主要国や豪州や韓国を筆頭とするTier2国はこの次世代NCS導入に向けて研究に余念が無い。しかしながらわが国においては未だ防衛省はもとより経産省においてさえもNCSに関与するISO8000やISO22745の研究が立ち遅れており、産官学を通じて次世代ロジスティクスを論じる場が無い。このことを考えるに付け余りの乖離に切歯扼腕の思いである。NCSに参加することはいかなる躊躇も許されるべきではなく、TIER1、TIER2を問わずして、この新しい世界標準のデータ品質管理基準に則った装備品データベース構築の研究に着手しなければ近い将来に必ずや国産部品の枯渇という不測の事態を招く結果となることは火を見るより明らかである。
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