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【NATO装備品と電子商取引】

2011.6.30

押し寄せる国際装備品ビジネス
防衛省はこの4月にロジスティクス政策における永年の課題であったNATO/NCS加盟をようやく果たした。NATOによればこれで世界の63カ国がNCS(NATO装備品データベース )を運用することになったとしている。ところでNCSを一元管理するAC/135委員会では装備品データ登録業務が複雑多岐を極め、即応性を求めるNATO戦略に影響を与えかねないとして10年以上も前からECCMA(米国電子商取引コード管理団体)と協力して次世代における電子商取引を見込んだ装備品データ品質管理の国際標準(ISO)作りを目論んできた。今回わが国がNCSに加盟したことでこのNATOによる装備品の電子商取引の波は確実にわが国にも押し寄せることになり、防衛省はともかくわが国産業界の電子商取引を推し進めてきた経産省の出方が注目される。そこで今回は過去にも取り上げたNATOによる電子商取引について改めて解説する。(DCメール 2011年7月1日 No.296)

■NATO装備品と電子商取引
米国のFLISやNATOのNCSのような装備品データベースには限りなく多くのデータが組み込まれている。登録された装備品を取得・運用する各国ユーザはNSN番号や技術特性データを検索して必要物品を迅速に手配しなければならない。NATOのように多国籍で多言語からなり、装備品の内容や構成も異なると、とてつもなく膨大な時間とコストがかかる。そこでNCSを一元管理するNATO,AC/135委員会ではこのような複雑多岐にわたる装備品を統一し、かつ電子商取引化することを以前から推進してきたが、2001年にECCMA(米国電子商取引専門団体)と協力することで具体的に大きく前進することになった。そしてその答えがeOTD(ECCMA共通技術辞書)の国際標準化であった。
13桁からなるNSN(共通部品番号)には数多くのデータ・エレメントが組み込まれている。その中でもユーザが最も利用する頻度の高い物品番号( Reference Number ) や技術特性や企業名などは全て民間データである。NSNを構成するこういった民間データ、特に技術特性データはFLISやNCSをより効果的に且つ検索性を豊かにさせるためのデータ・エレメントである。
ところで近年インターネットの隆盛により電子商取引が拡大され、電子部品を筆頭にあらゆる工業製品の電子データ化が推進されてきたが、これら電子化されたデータは企業単位で行われてきたものであり、また国単位のものである。そしてそこには企業同士はもちろん国同士におけるデータ交換作業は多くの場合その自動化が困難であり、多くの労苦とコスト要因が付きまとってきたのである。ことさらFLISやNCSの場合は1600万件以上のNSNのひとつひとつの装備品データを組み込む作業は膨大なコストが見込まれてきた。そこでNATOでは主にDODが中心となって古くからこの問題を論議し研究を重ねてきたが、ここにECCMAとの協力によりデータの識別・類別作業における共通技術辞書であるeOTDの開発に成功したのである。
このeOTDはDODの傘下にあるDLA Logistics Information Service(旧DLIS)とECCMAの間で誕生したいわゆる異なった工業技術データ・フォーマット同士の交換や転換を可能にするアーキテクトをもち、膨大なFLISやNCSを維持管理するためのコストを大幅に削減する、初めての官民が一体化した電子データ変換を可能にするプロジェクトであった。このECCMAとの共同歩調により米国やNATOではeOTDの国際標準化を目論み推進することで、2008年にISO22745(産業オートメーションシステム及びその統合-オープンテクニカルディクショナリ及びそのマスタデータへの適用)として誕生させることに成功した。また同時に従来からの品質管理規準であるISO9000に習い、データの品質管理基準として新しくISO8000(マスタデータ:特性データの交換:構文,意味符号化及びデータ仕様への適合)を誕生させることに成功したのである。
ISOの技術委員会( TC )における新標準策定の活動はECCMAを筆頭にDODあるいはAC/135が中心となって各国メンバーと審議を重ねまたあるいは説得を重ねることで賛成を取り付けたとされている。そしてそこにはNSNを核とした世界の装備品DBの構築だけではなく、国際連合(UN)との協調による国連物資コードの取り込みをはじめあらゆる世界の商品、製品、装備品DBの構築を視野に入れた戦略構想が見え隠れするのである。
FLISやNCSの最大の目的は、即応性に基づく装備品の欠落時間を最大限に短縮できることにあるが、本当の価値とはNSNに取り込まれた各種要素データにより、在庫の確認、保存期間の識別、交換・代用可能な供給物品の識別、利用可能な代用品の最大限使用、価格情報の提供により防衛予算の最適化、武器システムのライフ・サイクルを拡張し、設計、製造および修理プロセスのためのサイクル・タイムの改善、機密情報を保護し、多数の調達業者の登録、重複物品の識別援助などが最適に行なえることにある。
恐らくこのNSNの最も重要で最も遠大なメリットは、装備品の取得要求から保守、そして廃棄に至るまでのライフ・サイクル管理を提供するということにある。 NSNを集積したFLISやNCSは装備品検索システムであるWebFLISやNMCRLを通じて世界的に使用され、NSNはもはや国際語となったと言われている。今やNSNはトータル・コスト・オブ・オーナーシップ( TCO)の実現を具体化し、装備品の初期コストに加えてランニング・コストを含めた総合コストの削減を可能する戦略的な概念として今後益々進化を遂げるものとして期待されている。米国に端を発した装備品取得に纏わるNSNの総合コスト概念はNATO諸国や国連( UN )における物品取得のオプティマム・ツールとして世界最大の利用者を抱えるまでに膨れ上がっているのだという。
一方わが国ではこのECCMAとNATOによる新しいISO22745とISO8000の国際標準化(ISO化)への動向は経産省が早くからウォッチをしてきたが、識別・類別政策の立ち遅れから装備品に特化した規格という見方を変えておらず、ISO8000への研究・対策はまさに始まったばかりであり、またISO22745に至ってはなんら対応がとられていないのが現状である。経産省が率いるわが国の産業界では早くからISO13584( PLIB )を基本とした電子商取引形態を推進してきた。製品の電子データ化は主に企業内向けであり、企業同士の取引形態は共通性や一貫性にかけることから経産省が中心となってPLIBの推進を手がけてきた経緯がある。そこで今後NATOが推奨するISO22745( eOTD )とわが国が推進してきたISO13584( PLIB )との共有モデルの開発が重要な課題となる可能性がある。わが国が今後T2に昇格する手順を踏むか踏まないかは別にして、NATOはわが国にeOTDを基にした電子商取引を求めてくることが予想されるだけに、国内産業界の摩擦や軋轢を出来るだけ早期に解消しておくことが大変重要である。
現在わが国の自衛隊が保有する170万品目ともいわれる国産装備品データのNSN化や国際共通化は真の同盟の証ともいうべきT2( ティアツー )段階をクリアーしなければならない。近年、日米、日豪、日韓によるACSA協定の調印が国民の知るところとなったが、この米韓豪はともにロジスティクス先進国で既に電子商取引に向けての研究に余念がない。特にT2加盟の暁にはわが国装備品産業界を本格的に関与させるための経産省の協力は必須となる。とにかくT1加盟を果たしたからには装備品の電子商取引対する調査と研究を立ち上げ、産官学を通じてNCSを論じる場を創設することが急務となろう。
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