【米PBL政策を見直し】
2011.9.23
2005年に発行されたPBL(Performance Based Logistics)ガイドブックは今年の4月に一新され、その名もPSM(Product Support Manager)ガイドになった。この2つのガイドブックを比較すると、その内容や構成がガラリと変わった。新しいPSMガイドにはPBLという文字が表題から消え、また内容にもほとんど見当たらない。PBLはどこへ行ったのか、またPSMとは何か、また何故変更されたのかをここで紹介する。興味のある方の一助になれば幸いである。
新しいPSMガイドについて
2009年11月の米国防次官による提言「武器システム取得改革」(注1)に基づき、DODは昨年6月の次官通達(注2)「より良い取得力」の中で従来からの取得方法の見直しを示唆した。そして今年の4月には、通達に従い2005年に公表されたPBLガイドブックの全面的な見直しを図りその名も「取得品支援管理者ガイド」(注3)とした。
(注1):DOD Weapon System Acquisition Reform Product Support Assessment
(注2):Better Buying Power: Mandate For Restoring Affordability and Productivity in Defense Spending
(注3):Product Support Manager Guide
この新しいPSMガイドの巻頭にはPBLガイドブックの移行版(supersession)であることが明記されている。PBLを表紙から省き、新しくPS(取得品支援)という標題の元でPSM(取得品支援管理者)向けガイドとした。そこでPBLに何があったのか。何故PBLの改版ではなく移行としたのか等を調べた。
2009年の国防次官の提言によると、即応性に対する成果の向上とコスト削減という二兎を追う政策としてDODは21世紀の初頭からPBLという成果主義による契約手法を研究し1995年にはその手法が
確立された。それとともに各要求元である米陸海空軍ではPBL契約が多岐にわたり成立し、即応性という観点においては、従来からの問題であった装備品の枯渇、納期遅延などによる前線における充足性の改善が大きく図られた。これも民間のSCM(Supply Chain Management)などのロジスティクス管理技術手法を利用するメリットとして大きな成果が得られたとしている。
しかしながらコスト面での改善がなかなか図られず、また改善を立証する手立てに苦労するなどPBL手法の問題点が要求元に蔓延し始めた。近年の調査では、PBL契約は200件以上に増加したとの評価もあるが、そのなかには統合システムに組み込まれたサブシステム契約も含まれるため実際のPBLによる取得契約は全契約のたかだか20%程度でしかない現状であるという。
もともとPBLにはポスターチャイルド(広告で使用される子供のことで万人受けを狙うという意味)の側面があり、1990年代の粗悪なロジスティクス支援時代を払しょくする意味もあって、大々的なPRをしてきたが現実は容易ではなかった。陸海空などの要求元(顧客)の意見では、PBL手法にした場合のコスト削減の分析と立証法が個々の取得事案(ビジネス・ケース)により不明確であり、コスト削減できる見通しのないものはPBL契約を行わなかった。
そこで2010年の次官通達では新しい取得手順「よりよい取得力を!」をスローガンにこのPBL契約手法の全面的な見直しを図り、取得品支援管理手法を新しく取り込むことで少なくとも2-3%のコスト削減をを創出することを全機関に示したのである。そして今年4月に発行されたPSMガイドではPBLをバイナリ・レベル(2進法的)として片付け、新しくPSMをその進化版(Evolution)に例え、従来からの12段階プロセスモデルを再構築しなおした。
また特にBCA(取得事案分析)ガイドを別途発行して、取得事案の克明な分析、評価システムの構築を図った点が特徴となっている。この理由として、従来からのPBLでは多くの場合BCAプロセスにおいて満足に成果が出せず、よって分析・評価ができずに終わってしまったケースがあった。その結果その手法で良いのか、他の手法を使用するべきなのかという分析ができないまま、結局はコスト削減を立証できないままに終わったケースが多々あった。
そこでPSMでは12段階のうちの計画プロセスにBCAを引き上げ、多くの代案を含めて十分に検討し、ベスト手法の選択と立証手順を確立させるようにした点が注目される。またBCAについては新たにBCAガイドを発行し、詳細かつ克明な過程と立証手順を構築した点が従来とは異なる点となっている。
米国防総省(DOD)は自戒を込めてPBLの「幻影」を改めて見つめなおし、取得品支援という恒久的な方向性を改めて示唆したものとなっている。しかしPBLに息づいていた即応性への成果は充分に評価されており、PCMガイドをPBLガイドの進化版としている点は注目される。PBLが契約者に受渡と取得品支援そして即応体制を直接結びつけることで画期的な契約手法を創生したことは事実であり、この新しいPSMの概念はPBLの弱点を補強するために要求目的を精査し、取得品支援という恒久的なスローガンを通じて最良の取得方法を導くものとして新たな取り組みが始まった。わが国もコスト抑制策の一環としてこのPBL契約手法を試行しているが、この米国における見直しと新しい取り組みについては充分な精査を行うことで的確な取得品支援管理のガイドライン策定をお願いしたい。