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【MILスペック調査報告から】

2013.6.30

-認定責任や運用規準への生きた教訓 -
わが国のユーザはMILスペックを読みこなすうえで多くの問題を抱えている。なかでも過去からの教訓に根ざした多くの解決策は米国のMILスペック制定部門でも文書化されていないだけに戸惑うばかりである。弊社は30年余りを米国防総省(DOD)とこのような問題において質疑応答を重ねておりその膨大な資料は貴重な財産となっている。そこでDODからの助言や見解を見るにつけMILスペック上からでは判断できない事情や背景あるいは慣例といったものを映し出していることがわかる。MILスペックを読みこなし研究や開発、製造そして取得や調達に活かすためにはこのような基本的ともいえる知識を蓄積していくことが大切である。ここでは過去の調査事例から認定責任や運用規準など生きた教訓の一例を紹介しよう。( DCメール 2013年7月1日 No.344)

 

■認定メーカに認定証の提示を求める
一般にユーザは取引メーカあるいは仲介する商社からの回答を鵜呑みにすることが少なくない。しかしDODの認定情報についてはこの限りではない。認定するのはDODであってメーカや商社ではない。よって認定メーカへの調査は認定証の確認が必要である。弊社が受けた調査依頼でもメーカは認定されていると言っているがというケースが多い。ならば提示を要求することが問題を回避する糸口となる。DODでは認定品や認定業者はQPLやQMLとして公開しており最新版のQPDに青信号で表示されていない場合はメーカに認定証( letter of authorization )の提示を求めるべきであるとしている。QPLやQMLの認定に時間がかかり認定証が発行されてもQPDに掲載されてない場合があるからである。わが国のプライム・ユーザでは認定についてのメーカ情報は質が低いとされている。とくにMILスペック認定品の場合認定品メーカがいくら自社製品が認定されていると回答してきてもユーザの意思決定部門からすると信用度や精度は低くやはりDODが認めてくれない限り使用できないとしているからだ。
■認定証が無い限り認定品ではない
認定品メーカからの回答で認定部品がQPDに掲載されていないあるいは赤信号によりユーザの納品検査がストップする事態がある。DODによれば認定試験が終了しあるいは書類による再認定が終了した場合認定証を交付する。DODは現在に有効な日付の認定証が無い限りは認定品とは言えないとしている。QPDに掲載されていないあるいは赤信号であるということは手続きの遅延や不注意による可能性があり確認することで是正されよう。しかしあくまでも有効な認定証が無い限り認定品ではないことをユーザは知らなければならない。なお認定品に関する全ての責任は認定品メーカにある。対DODへの責任や対ユーザへの責任は認定品メーカが負うことになるので充分な注意が必要となる。しかし一方では認定品メーカはそれだけの信頼性と利益を勝ち得ているとされているからである。
■未認定品の受領責任はユーザにある。
近年認定品以外は取得しないユーザが増えているがそれでもいろいろな理由で未認定品や非認定品、旧認定品を購入する場合が少なくない。このような場合DODは最新版スペックの認定がなされるまでの間に旧認定品(旧版スペック品)を購入した場合ユーザ(購入者)が責任を負わなければならないとしている。一般的に認定を必要とするMILスペックが更新された場合認定メーカはMILスペックの最新版において再認定を取得する必要がある。その場合旧認定品は認定品ではなくなる。そこで最新版認定品ではない旧版認定品の受領責任についてはユーザ責任となるということである。旧認定品の取得についてはユーザは充分な調査と検討が必要となることは言うまでも無い。
 
■調達要求のあるスペックは廃止できない
何故廃止にしないでインアクティブ(Inactive for new design)に留めておくのかという質問がユーザからたびたびある。DODによればいろいろな理由で廃止が検討されるMILスペックは調達要求がある限りは廃止(Cancel)にせず無効(inactivated for ne design )という暫定処置を取る。廃止が検討されながら調達要求があるということは移行や代替と言った取り変わるべき別のスペックが無い状況にあるのが原因である。そこでDODはこのような要求のあるMILスペックは廃止ができなく移行措置として暫定的に無効として従来からの調達要求には応じる措置をとっている。しかし新たな設計には当然無効としているのだ。なおスペックが inactivated for new design となった場合はいずれ 廃止(Cancel )されるものという解釈になっている。
■民間に移行したスペックの使用責任は民間にある。
DODは民間手法やコストならびに技術的な見地からMILスペックを廃止し民間規格に移行する措置を取る。また新たなMILスペックを開発せずに既存の民間スペックや規格を採用することがある。これらは代替民間スペックとかDOD採用スペックなどとして民間規格団体にその改廃を委ねる。しかしDODはこれら移行したり採用した民間スペックや規格をMILスペックと同様に運用する必要がある。これら代替スペックやDOD採用規格の改廃責任は民間団体に移行しているためにMILスペックとの表記が不統一であったりまた意思の疎通も無い場合がありユーザがトラブルを抱えるケースも少なくない。DODはこれら代替民間スペックやDOD採用民間スペックの責任は民間規格団体によるものであることを明確にしている。
■DODは明らかな誤記であることを認める
MILスペック( に限らず民間規格も )は誤字脱字などのミスプリント( 誤植 )が多いことを知っておくべきである。わが国のMILスペック・ユーザにとってMILスペックは神聖かつ取得契約上の重要な条項に値するものであるから例え一字の誤植であっても看過できない。DODではこのようなクレームを受け場合は迅速対応をすることになっている。弊社からのMILスペック誤植に関する調査依頼は枚挙に遑(いとま)がない。DODは早速訂正するためのアクションを取る旨の回答をしてくる。また改版となる場合はドラフト版を送付してわが国ユーザにその意向を質してくる。こういったDODの対応はユーザが安心して迅速に業務に取り込むことができるようにしている。文化的な違いや国民性の違いと言ってしまえばそれまでであるが誤りに対する対応がわが国のそれとは余りにもかけ離れていることに戸惑いすら覚えるが適切な運用にいち早く対応する能力は見習う点が多い。
 
■試験の適用値は総合スペックではない。
適用スペック間での要求が異なるケースはよくあることである。例えば総合スペック(General Spec )と個別スペックの試験要求値が異なった場合どちらの要求を取るべきかを相談した。DODからの回答は個別スペックの値を適用するようにとのことであった。一般に個別スペックは総合スペックを補填するために採用されるので総合スペックは調達契約の全体に対して重要であるが個別の技術案件などについては個別スペックが適用されるということである。
■総合スペックに記載された場合は個別スペックには記載しない
改訂された個別スペックから記述が削除されたことについて見解を質したところ総合スペックに記載されている場合は個別スペックには記載しないとの回答である。また総合スペックに記載され適用される場合は個別スペックから記述を削除することになっているということである。これらの回答を合わせて考えると 総合スペックと個別スペックとの関係が明確に表現されていて興味深い。即ち総合スペックと個別スペックには目に見えない境界がありお互いに不都合のないように取りきめられているが、もし重複する場合は個別スペックを取るものとし故に重複させないルールが双方に存在する。これは装備品によって境界線が異なるが総合スペックと個別スペックの相互関係から調整が図られていると言えよう。スペックユーザもその都度見解を質すことで運用調整していくことが望ましい。
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