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【グローバル・ロジスティクス】

2013.8.1

―共通装備品と韓国事例の紹介―

グローバル・ロジスティクス(GL)とは近年米国が提唱しNATOが実践する世界共通の後方支援概念である。なかでも共通装備品システムはNCSと呼ばれ13桁の物品番号(NSN)を付与しNATO諸国およびTier2(現在豪州と韓国を含む9カ国)のみが登録を許される。また米国では共同開発したF-35はもとより全ての装備システムの運用・維持管理はグローバル・サステインメントの名において世界規模で実施され総合的な効率化とコストダウンを図る戦略が講じられている。このように米国のグローバル化概念は今や装備品の世界標準として捕らえておく必要がある。 (DCメール 2013年8月1日 No.346)

■グローバル・ロジスティクスの意味するもの
国境を越えた同盟諸国が共通した装備品システムを運用するというグローバル・ロジスティクスの概念では自国の装備品システムの即応性維持のために可能な限りリアルタイムで共有した装備品情報の運用が求められる。ひとつの不具合品情報が命取りになりかねないからである。欧米、豪、韓それに昨年はロシアの加入など各国では共通したGL体制の下、すべての装備品の運用管理はグローバル・サプライ・チェーンへと拡大している。
 
そもそも米国が提唱するGLとはなにか。NSN( ナショナル・ストック・ナンバー )はロジスティクスの国際語であるという文言がある。NSNはロジスティクス情報の国際共通語として加盟国ではもちろん政府調達( FMS )など輸入装備品に携わる関係者の間では知らない者はいない。このNSNは米国などNATOを中心に現在では世界の主要国で採用されている装備品識別の最小単位である。このNSNこそはわが国が本格的に採用するべき世界共通の装備品番号体系である。
 
13桁からなるNSNには数多くのデータ・エレメントが組み込まれている。中でも利用頻度の高いものとして代替品パーツ番号や技術特性、企業コード、参考価格などがある。これらNSN装備品は米国のFLISやNATOのNCSデータベースに組み込まれている。そしてNSNの最も重要で最も遠大なメリットは装備品の取得要求から保守そして廃棄に至るまでのライフ・サイクル管理を提供するということにある。NSNを集積したFLISやNCSはその装備品検索システムであるWebFLISやNMCRLを通じて世界的に使用されNSNはもはや国際語となっているのである。
 
NSNの数は米国だけで700万件を越すと言われNATOやその他の関係国を含めると1700万件にも上る膨大な装備品の数である。そしてこのNSNの最大の特徴はなんと言っても主要国のメーカにより生産される装備品例えば航空機部品から生活必需品に至るまでの互換品や代替品情報が掲載されていることにある。その結果これらメーカ品の数はNSNの数倍となり、約数千万件にも上るといわれている。
 
ちなみにお隣の韓国は既にT2(ティアツー)国として自国装備品を世界市場に輸出している。世界の装備品市場において韓国の実績は目を見張るものがある。韓国によればNCSにより防衛装備品と民間品をリンクさせ、またNCSについて中国を教育しロシアの構築を支援したという。これらは韓国取得改革によって設立したDAPAを中心に韓国NCBがデータ変換を強化し始めていることによるものである。韓国は既にNCSを通じてNATO諸国との装備品情報の一元化により米国を含むNATO諸国からは信頼される国へと変身したのである。
■F-35装備品輸出とグローバル・ロジスティクス
そもそもロジスティクスの観点からみればF-35の共同開発や共同運用に合意した国々はいわゆるNATO主要国とそのT2諸国であり、F-35の初期構想はPBLなどの次世代型ロジスティクス政策を可能にするロジスティクス先進国による共同プロジェクトである。
 
F-35の運用持続契約は米国ロッキード・マーチン( LM )社による民間型グローバル・サプライチェーンにより履行され全ての装備品にはNSN登録が義務付けられる。そこで米国防総省( DOD )が中心となりFCS( 米国装備品システム )やNCS( NATO装備品システム )はALIS( 民間型装備品システム )との装備品識別の共通化を図る調整が行われるのである。
 
このようにわが国がF-35エアシステム導入を決定したことはGLの視点から見れば海外諸国との装備品共通化であり、NSNの採用、T2加盟に向けた体制づくりをすることにほかならない。また新しい世界標準のデータ品質管理基準に則った装備品データベース構築の研究にも着手しなければならない。そのうえF-35の維持持続体制の強化に向けた多国間PBLの導入に着手しない限り他国の介入というわが国にとっての不測の事態を招く結果となることは火を見るより明らかなのである。
■韓国のグローバル・ロジスティクス
韓国の急激な装備品輸出の伸張は10年以上にも渡り欧米諸国との駆け引きに乗じたロジスティクス戦略にあった。韓国がここまで急成長した裏にはNCSとの深い結びつきがあったことを知る必要がある。また韓国は既にNCSに加盟する多数国との2国間協定(MOU)を締結し着実にGLの世界ではアジアの盟主としてのしあがった。わが国はようやくNATOのTier1国となったが韓国は既に2005年にはTier2国として世界市場で装備品の輸出体制を確立させた。そのうえ装備品にとどまらず米国国防総省(DOD)の指導でPBL手法を身に付け今着実にアジア地域におけるGL事業の普及に邁進している。
その意味でDAPAを知らなければならない。DAPAはその旗振役として韓国内外の取得契約の遂行と国防産業界の育成および国内外のプロジェクトを推進する韓国国防部傘下の防衛事業庁である。
一昨年米国は韓国に装備システムの即応性( MR )のプレゼンテーションを行った。このことはT2( ティアツー )国である韓国が既にアジアのロジスティクス分野で指導的な立場にあることを意味している。韓国のロジスティクス・システムは米国を中心としたNATOシステムと統合化されており、あらゆる装備品は共有化され運用されているからである。
この意味のもつ重要性は韓国装備品はNATOシステムを通じて自国運用はもちろん他国にも輸出可能ということである。既にNATO検索サイトでは韓国語による装備品情報が立ち上がっており登録した者は誰もが情報取得ができるようになっている。また韓国ではアジアの諸国向けにNATO装備品システムのウェブ・トレーニングを開始している。そしてこれらはすべてDAPA が統括しているのである。
 
ところでDAPAによると、2011年度の装備品輸出額は当初計画の16億ドルを大幅に超える24億ドル( 約2000億円 )であったとしている。そして韓国防衛産業界は今後とも輸出指向型に特化して、例えばLM 社との共同開発によるT-50型ジェット訓練機など米国との協力でハイテク技術を中心とした防衛装備品輸出の研究に余念がない。6年前に創設されたDAPAは韓国防衛事業を統括する総本山として国内の産業界をまとめるだけではなくアジア諸国とNATOとの重要なパイプ役を担っているのである。
 
■韓国は世界の防衛装備品市場で主要プレーヤーとなる
昨年ザ・コリア・タイムス1月16日付( 電子版 )によれば、世界の国々が軍事費を締め付けようとしているなかDAPA )はむしろ世界市場における自国シェアの拡大の機会として捕らえていると下記のように伝えている。
 
「2011年、韓国は24億ドルにのぼる防衛装備品の輸出高を記録し当初計画の16億ドルの目標を上回った。高度の技術と品質のうえ魅力的な価格で対処したことがその販路を拡大しているのである。そのうえ2012年は30億ドル( 3000億円 )の輸出目標を設定している。」
 
「韓国は将来的にドイツやフランス、イギリスを含むほぼすべての競合国を凌駕して、世界の防衛市場における主要プレーヤーになることを考えている。そして最終的に韓国は100億ドル( 1兆円 )の年間装備品輸出を賄うことができるとしている。」
 
「2011年度の世界防衛市場年鑑によれば2010年において米国のみが輸出において100億ドル以上を締結した。世界の装備品輸出市場では、米国は52.7パーセントを占め、212億ドル相当の装備品を輸出し、続くロシアは78億ドル、19.3%であった。」
 
「2010年韓国は11.7億ドルだった。が世界的景気後退過去数年平均で30億ドル相当を輸出したイギリス、フランス、ドイツは、2010年たったの14億、1.3億、1億ドルだった。これをみても韓国の輸出量が大幅に飛躍していることがわかる。」
 
「民間製品とは異なり、防衛装備品は、少なくとも20~30年を必要とする保守やサポートが見込まれ今後の安定した需要のための基礎を築くとされている。」
 
■韓国防衛装備品動向
一昨年米軍嘉手納基地に配備されたすべてのF-15戦闘機が今後5年間にわたり大韓航空(KAL)に補給処整備( デポ・メンテナンス )をおこなう調印が米韓でなされた。発表された内容によると契約の特長は従来からの米国政府( 米空軍 )管理に基づく装備品契約から契約業者が全面的に装備品管理を請負うパートナーシップ契約に変更された点にある。これは1982年以来F-15整備を経験してきた大韓航空の実績が大きく評価された結果であり、全面的な契約業者の権利と責任が問われるいわばPBLあるいはプロダクト・サポートによるパートナーシップ契約とされている。
 
沖縄嘉手納基地に配備された54機すべてのF-15戦闘機の整備は全面的に韓国プサンの大韓航空によって持続管理・整備が図られることになる。わが国の嘉手納基地に米空軍が配備するF-15はわが国防空、制空の重要な一翼を担っており、韓国民間企業による維持管理・整備契約はわが国のロジスティクス体勢の立ち遅れを象徴する衝撃的な出来事であった。 
 
また、昨年になって米国ボーイング社は韓国政府との間でF-15のPBL契約を締結した。これはボーイング社にとって韓国政府との始めてのPBL契約である。またボーイング社は韓国の現代グロービス社による装備品や代替パーツのサプライチェーンを採用し展開していくとした。この現代グロービス社は韓国最大の現代自動車グループ企業の一つで、陸海空輸送、物流コンサルティング、倉庫、包装サービスおよびサプライ・チェーン・マネジメントを専門としている。これら装備品や代替パーツのサプライチェーンにより韓国防衛産業界は新しい需要の恩恵を受けることになる。
 
なおこのPBL契約は従来からのレガシーシステムを「近代化」させるような伝統的なアプローチと異なり全体論的に装備システム、アセンブリ、部品およびコンポーネントのサポートを管理し即応性を達成するために例えばシステムに組み込まれる部品の「枯渇」を緩和させるものとして大変有効であるとされている。民間企業との長期契約を通していわゆる部品や製品の取得というよりはむしろ成果を取得するという新しい概念に立っている。このように米韓では新しいPBL契約により装備品や代替パーツのサプライチェーンを展開し今後は韓国内はもとよりアジア諸国に対して装備品の提供から運用・維持・管理に至るまでのライフサイクルの支援を推し進めていくものと思われる。
 
 
       
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