【在日米軍オスプレイ整備入札】
2014.8.15
-米軍機整備における国際入札の問題点ー
一部の報道によると沖縄にある米軍普天間基地に所属する垂直離着陸機オスプレイの整備契約の国際入札が今秋行われるとのことである。そこで思い起こすのが3年前にこのブログでも紹介した米軍嘉手納基地のF15と同三沢基地のF16の整備契約で何れも韓国企業(大韓航空)が複数年度契約(PBL)として落札したことである。今回のオスプレイ整備入札には新たにわが国企業も参加するようであるがここで在日米軍機の整備契約が国際入札方式である点を改めて解説する。(DCメール 2014年8月15日 No.371)
■米軍機整備における国際入札の問題点
2011年10月にこのブログで紹介した韓国の大韓航空が嘉手納F-15戦闘機整備で全面契約をしたニュースは以下の通りである。
先ごろ行われた米空軍の発表によると、日本の嘉手納米空軍基地に配備されているすべてのF-15戦闘機は今後5年間にわたり韓国の大韓航空が補給処整備(デポ・メンテナンス)を執り行うことで、正式な調印がこの9月21日にロビンス米空軍基地内で取り交わされた。契約額は4億7300万ドル。米空軍により発表された内容によると、今回の契約の特長は従来からの米国政府(米空軍)管理に基づく装備品契約から契約業者(大韓航空)が全面的に装備品管理を請負うパートナーシップ契約に変更された点にある。これは1982年以来F-15整備を経験してきた大韓航空の実績が大きく評価された結果であり、全面的な契約業者の権利と責任が問われるいわばPBLあるいはPS(プロダクト・サポート)によるパートナーシップ契約と思われる。沖縄嘉手納基地に配備された54機すべてのF-15戦闘機の整備は全面的に韓国プサンの大韓航空によって持続管理・整備が図られることになるのだ。
実はこのことが非常に重要な意味をもつということを当時語るものがいなかった。わが国の嘉手納基地に配備される米空軍が所有するF-15はわが国防空、制空の重要な一翼を担っており、今回の韓国企業による維持管理・整備契約はわが国のグローバル・ロジスティクス体勢の立ち遅れを象徴する出来事であったがそれ以上にわが国の安全保障政策を脅かす誠に由々しき問題であった。 わが国を守る航空機が例え米軍機であれ他国企業による保守整備が行われている場合その国との関係によっては有事の際に大きな問題と化することになるからである。
米軍は近年諸外国に駐留する航空機の整備方式を米国政府の方針もあり国際入札方式に切り替えている。また契約方法も維持管理を包括したPBL形態となり契約相手先となる民間企業への責任体制の強化につながっている。たとえば米太平洋空軍(PACAF)の管轄地域はハワイやグアムなどの米国はもとより日本の嘉手納や横田、三沢と韓国オサン、クンサン基地が含まれる。よって米軍は従来は米国本土への返送あるいは米企業による現地整備が主体であったが米国防総省による即応性維持とコスト低減政策により国際調達あるいは現地調達方式に切り替えられてきたのである。
韓国は米国に倣い軍用機の整備事業に早くから乗り出していたこともあり実際はほぼひとり勝ちであったといえよう。たとえば米国ボーイング社は韓国政府との間で同国が保有するF-15KのPBL契約を締結したが同社は韓国の現代グロービス社による装備品や代替パーツのSC(サプライチェーン)を採用し展開していくとした。この現代グロービス社は韓国最大の現代自動車グループ企業の一つで、陸海空輸送、物流コンサルティング、倉庫、包装サービスおよびサプライ•チェーン•マネジメントを専門としている。これら装備品や代替パーツのサプライチェーンにより韓国防衛産業界は新しい需要の恩恵を受けているのである。
ところでここでいうPBL契約とは従来からのレガシーシステムを「近代化」させるような伝統的なアプローチと異なり全体論的に装備システム、アセンブリ、部品およびコンポーネントのサポートを管理し即応性を達成するために例えばシステムに組み込まれる部品の「枯渇」を緩和させるものとして大変有効であるとされている。民間企業との長期契約を通していわゆる部品や製品の取得というよりはむしろ成果を取得するという新しい概念に立っている。
米国政府はかって韓国政府に対してPBL政策を伝授した。これは米国にとってもアジア太平洋地域において新しくグローバル・ロジスティクスを展開するうえで好ましい戦略であったのである。このように米韓は新しいPBL契約により装備品や代替パーツのサプライチェーンを展開しそれにより韓国は自国内はもとよりわが国も含めたアジア諸国に対して装備品の提供から運用・維持・管理に至るまでのライフサイクルの支援を推し進めているのである。
一方わが国が新たに米軍機を含む軍用機の整備事業に乗り出すことは米国政府にとっても好ましい状況と言える。それは現地における整備能力が向上するだけではない。アジア太平洋地域を掌握する米国にとって高度の維持整備能力をもつ同盟国が増えることは地域の安定性をより確保することになるからである。また装備品の即応性の見地からしてもより高い可動率を維持できることに他ならないからだ。
わが国は民間航空機の国際整備事業とは違い軍用機の国際整備事業への参加は大きく立ち遅れているがここにきて海外諸国との装備品開発や輸出案件が矢継ぎ早に発表され新しい政策も目白押しとなっている。そこでこれを機に今までの遅れを払しょくし米国が提唱し多くの先進諸国が追随するグローバル・ロジスティクスの名のもと装備品システムの共通化、一元化を成し遂げ新しいPBL政策のもと装備品DBの再構築やサプライチェーン導入の弾みとなるよう国際整備事業にも突き進んでほしいものである。またわが国の安全保障政策上必須であることは言うまでもないことである。
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