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【MILスペック・コンサルティング】

2014.11.30

ーMILスペック・トラブルを回避するためにー

弊社はMILスペックを通じてわが国の防衛産業界に永年貢献してきた。特に調査業務を中心とするMILスペックコンサルティングは非常に特殊な問題をピンポイントで解決するサービスとして既に多くの顧客の間で定着している。MILスペックは米国防総省による共通装備品の開発や調達をするための要求を技術的に記載したものである。多くの輸入装備品に関わるわが国としてはMILスペックの一字一句を丹念に理解し改版や代替の理由、旧版との違いそしてどのような問題があるのかを丁寧に調べなければならない。その結果コスト削減の改善提案がなされたりまた新しい装備品や強いては民生品への開発と繋がるのである。このようにMILスペックの取り扱いは決して疎かにできないのである。(DCメール 2014年12月1日 No.378)

■MILスペック・トラブルを回避するために
ところで実際にどのような調査が必要とされるのかその実例を紹介しよう。例えば次のようなケースが常在するのである。
MIL-PRF-6083は油圧作動油のMILスペックであるが昨年G版に改訂された。しかしその適用範囲(Scope)には航空機には適用不可という新しい記述が加わった。このことは従来からF版を採用してきたユーザにとってはその運用方法に大きな影響をきたすことになりその理由や背景を調査する必要が不可欠となった。
米国防総省(DOD)に照会した結果、本材の添加物が高温において安定せず、また残留物を排出すると考えられているため航空機には適さないことまた航空機用としてはMIL-PRF-5606やMIL-PRF-83282およびMIL-PRF-87257を使用する旨の回答を入手した。
一般にスペックの改訂や変更理由はMILスペックに掲載されない。結果が述べられるだけである。だからユーザが精査しない限りこの件を見過ごすかまたは鵜呑みにするしかなく、それではいずれトラブルに巻き込まれる恐れがある。未然に回避する手立てが必要なことは言うまでもない。
弊社のMILスペック調査はDODの当該部門に照会することを基本とし前提としている。それはMILスペックに関するすべての回答は信頼ある内容でなければならないしまたエビデンスとして採用される場合があるからである。
次にMILスペックの認定品データベース(QPD)に関して次のような照会事例もある。
ある認定品について同一メーカが3箇所に記載があり、認証状況がそれぞれ赤、黄、青と異なる結果となっている。これはどういうことかということである。これでは装備品の調達相手先として信頼がおけないからだ。
そこで照会の結果、3箇所の記載の違いは同社の製品工場の違いにあることが判明した。同社は3箇所の異なる工場で認定を受けておりそのうち青の工場のみが認定済みの記録として登録されたのである。
これは認定品を調達する場合の基本であるが赤や黄色の調達先からの認定品は取得できない。認定品は常に認証状況が青でなければならない。同一製造者が複数の工場をもつケースは少なくない。その詳しい事情は製造業者に聞くしかないが少なくとも認定品の認証登録管理は製造業者の責任なのである。
さらにスペックの一字一句に疑問を投げかけることは大切なことである。たとえばAMS-4928Qの場合その4.3.1.2 項において1個の見本とはロットを代表する素材を1個、の意であり1個の張力試片(tensile specimen)では無いという解釈で正しいかとの照会がありSAEの考えを質した。
SAEの当該スペック委員会からの回答によるとその解釈は正しくないという。AMS-4928Q はその4.3.1.2 項で張力特性において各ロットからの素材の少なくとも1個の見本としている。そしてこの少なくともとはそれ以上の試験を要求しているという意味であり1個は最低であり特定の寸法や形状に対してのみ適用されるものという理解が大切であるとしているのだ。
こういった記述に関する問題意識は日本人のもつ生真面目さによるところも多いがもう一つはMILスペックが英語による独特な技術用語やまた法律用語で書かれていることに起因していることが多い。このような問題の解決には多くの経験が必要でありまたその経験を積み重ねることの重要さを弊社では説いている。
また最後にMILスペックの誤記についての照会も合わせてお知らせしたい。
MIL-DTL-3786/36A の図 1では表1を参照せよとなっているにもかかわらず表1が削除されたままである。そこでDODに問いただすと本件は不注意による抜け落ちであり表1を挿入すべく現在B版を作成している。また今回の指摘に対して感謝するとの回答を得ている。
一般にMILスペック・ユーザは自分が考えていることがMILスペック上で容認されているかどうかを知りたがるが、残念ながら実際のスペックはそこまでユーザに好意的に書かれてはいない。それどころか誤字、脱字あるいは間違った数値はもとより、論理的におかしい条項も見受けられるのである。しかしこういった問題を等閑(なおざり)にしていては一向に問題解決にならないばかりか大きなトラブルの原因となりいずれ多大なコスト要因や信頼の喪失へと繋がる結果となることを知っていただきたい。
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