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【MILスペックについてのFAQ】

2014.12.15

ーMILスペックって何ですかー

米国防総省(DOD)による装備品などの調達を潤滑に図るための標準化(Standardization)文書のことをMILスペックという。この標準化文書にはMILスペックの他、MIL規格(Standard)や図面(Drawing)、手順書(Handbook)など多種多様な文書が約3万件も含まれている。数の上で仕様書であるMILスペック(Specification)が圧倒的に多いのでこれらを総称してMILスペックと呼ぶ。最近ではSAEなど民間規格の取入れが急増しMILスペック自体も変容しており従来からのイメージとしてのMILスペックは死語化している。そこで改めてMILスペックをFAQ形式で紹介しよう。(DCメール 2014年12月15日 No.379)

 

Q:MILスペックは厳しい規格と聞いているが。
A:通常われわれが生活する周りにはありとあらゆる規格が存在している。洗濯機にせよテレビ、ボールペン、セーターなどすべてが規格品であるが、すべて人間の生活圏で100%の性能を発揮するように作られている。逆にいえばそれ以外の環境では100%性能を発揮しないしまた使用できないものもある。この性能を測る尺度はいろいろあるが、例えば生活する上での通常の温度や湿度、衝撃や重力などがあげられる。JIS規格などはその好例である。しかしMILスペックは遠い宇宙や空間、深い海底、熱い砂漠地帯や熱帯雨林また北極や南極のような極地でもその性能を100%発揮するように求める。そこでは材料から異なり試験方法やその運用基準もまったく違う。そこでこれがMILスペックが厳しい規格といわれる所以となっている。因みにMILスペックはその数が3万件近くあるが、航空機や電子通信システムなどの部品や材料のみならず靴や帽子、缶詰や鉛筆削りといった生活用品や事務用品に至るまで何でもある。しかし近年の改革でこういった特殊で高価なMIL製品は見直され特例以外は民生品にとってかわるようになってきた。
 
Q:MILスペックとMIL規格とは違うのか。
A:MILスペックは正式にはMilitary Specificationといい直訳すると米軍仕様書である。装備品を調達するために要求に合った品目や材料、手順や役務についての技術要求を記載したものをMILスペックという。MILスペックは個別契約毎に適用されるのが一般的で米軍だけでなく、NASAやまた世界中の国々で用いられているといっても過言ではなく、わが国の防衛や航空宇宙産業界でも昔から広く使われている。一方MIL規格は正式にはMilitary Standardといいいわゆる米軍規格である。MIL規格は計測が可能で比較検討できるように記された評価基準のことをいいMILスペックとは違いひとつのMIL規格はさまざまな装備品調達で採用されている。
 
Q:MILスペックやMIL規格以外の標準化文書とは何か。
A:DODで編纂する標準化文書(Standardization Document)にはMILスペックやMIL規格以外にMIL規格図面(MS Drawing)やMIL手順書(MIL HDBK)、陸海空軍スペックの他、米国連邦政府スペック(Federal Spec)や規格がある。またSAEやASTM規格などの民間規格はDOD Adopted Standardと呼ばれ数多く見受けられる。実際の装備品調達ではこのように性格や目的の異なる文書を組み合わせて利用している。
Q:スペック改革について教えて欲しい
A:DODは今から20年前の1994年に当時のペリー国防長官による新しいスペック・スタンダードのあり方と題する通達を出した。これがいわゆるMILスペック改革の原点と呼ばれている。この通達の序論で米国政府は将来のために国を挙げて民間の最先端技術の導入と民生品の採用そして官民の統合による安価で防衛ニーズにあった産業基盤の拡大を目指すとした。この新しい方向性以上に重要視されたことがDODや陸海空などの軍機関における従来からの慣習の打破にあったことが改革と言われる所以である。米国とて長い慣習の裏には改革せざるを得ない温床があった。そのひとつに従来からのMILスペック運用環境における慣習があった。特殊ゆえに硬直化した組織や機能そしてこれにより産業は停滞し不要なまでの性能や形式化された試験方法や監督検査などすべてが温存されていた。そしてなによりもお金がかかることが大きな問題であった。この改革により不要なMILスペックは段階的に廃止し代わりに民間規格を登用した。民間規格を採用するということはMIL品から民生品に切り替えるということである。またできるだけ随意契約を避け競争入札制度を取り入れた。またMILスペックを使用する場合も出来るだけ参照源を減らし結果を問うような形式に変更した。パフォーマンス・スペック(Performance Spec)はこの代表例である。米国は国家事業としてMILスペックを含む標準化改革に挑み、不要な贅肉や老廃物を削ぎ300年後に向けて多くの先人が成してきた遺産を大切に継承していかなければならないとした。なおMILスペック改革が誤って流布されMILスペックが無くなると騒がれたが上記のように不要な部分を削減し新しい形に変容させたのであり決して無くなってはいない。
 
Q:スペック・ツリーについて教えてほしい。
A:スペック・ツリー(Spec Tree)構造はMILスペックの基本である。MILスペックには必ず適用文書(Applicable Document)の条項があるが米国の調達プロセスでは共通化したMILスペックを使用することが義務付けされている。例えば試験方法はこのスペック、塗装はこのスペック、また梱包はこのスペックという風に細分化されている。またそのスペックがそれぞれ細分化されて、その構造がツリー(幹から枝葉に分かれていくような)のようであることからスペック・ツリーと言われる。MILスペック改革により参照文書の階層(ティア)を省略する傾向にある。参照は第一層だけに留めあとは目安(Guidance)とするのである。昔は限りなく参照するとか第3層まで参照しなければならないなどMILスペックユーザーにとって関連文書を参照することは大きな負担であったが今後はスペック・ツリーも簡素化する。
 
Q:MILスペックの代替としてSAEやASTMが採用されている。
A:DODは長い間MILスペックを採用してきたがそのために随分お金がかかった。中にはMILスペックで調達しなくてもいい物品やサービスがあった。多くの技術革新により民間の技術レベルは急激に向上し十分に代替できるレベルになってきた。米国は国防予算の削減と技術レベルの見直しのために改革を行いより安く、早く、そしてよい製品の導入のためにSAEやASTMのような民間規格を採用しているのである。しかし航空機や軍特有のシステムや装置などまだまだMILスペックでなければならない分野も多くMILスペックやMIL規格も形を変えながら存在していくのである。
 
Q:PRFスペックはどのようなものか。
A: PRFスペックはスペック改革による新しい形式によるMILスペックである。従来からのMILスペックは大量にこのPRFスペックに切り替わってきている。その理由はPRFスペックは従来からのMILスペックのように細部に渡る要求ではなく結果としての値の要求をしている。これにより無駄な工程や方法が改良され最新技術の導入による手法が求められより安く、早く、そしてよりよいものが取得できると考えられている。DODはこのPRFスペックを他のスペックよりも重要視している。なお、PRFはPerformanceの略号であり、成果主義によるMILスペックという考え方になっている。、
 
Q:DTLスペックについて教えて欲しい。
A:PRFスペックに対比するスペックとして考えられる。DTLスペックは使する部材や要求の達成方法、製造方法などの設計要求を記述した仕様のことでPRFスペックと従来からの詳細な要求の両方を記載した仕様書ある。DTLスペックは従来からのMILスペックをPRFスペックのみなら詳しい要求を加えた仕様書としてより精度の高い装備品などに対して用られる。
Q:MILスペックの改版や廃止はどのように行われるのか。
A:MILスペックの全盛の頃は約4万件のMILスペックや規格が存在していたが現在は約3万件である。DODの下部機関に後方支援庁(DLA)があり、大勢の職員が分野別にMILスペックの改廃や見直し作業を行っている。MILスペックが改廃される理由は開示されないが常に時代に即応した最低要求基準(Minimum Requirement)が求められより安く、より早く、より良くするには要求内容の変更をするために改訂されまた一方では戦略的な考えに基づいて改廃される場合がある。
 
Q:Noticeの種類について教えて欲しい。
A:MILスペックの改廃においてNotice(変更通知)は重要な役割を担っいる。Noticeには、Inactive、Cancel、Reinstate、ReactivateおよびVlidateの5つがある。NoticeはRevisionやAmendmentの際には発行れず、またNoticeは過去の全てのNoticeを代替する。上記の5つのNoticのうち最も一般的なものはCancel Noticeであるが最近ではInactive Notice(次項目参照)が増加している。Validateは定期的(5年毎)な技術的な見直しで「有効」と判断された文書であることを示したもの。
Q:MILスペックのINACTIVEについて教えて欲しい。
A:正式にはInactive For New Design(新規設計には無効)といいスペック改革から生じた改訂情報のひとつである。INACTIVEスペックはいずれ廃止されるまでの猶予期間スペックで従来からの継続契約や再契約では有効とされるが新しい設計要求には無効である。近年INACTIVEスペックが非常に多くACTIVEスペックやCANCELスペックと肩を並べるほどである。これはまさに数多くのMILスペックがPRFスペックや民間規格に代替されようとしていることを物語っている。
 
Q:配布制限(Controlled Distribution)について教えて欲しい。
A:DODは一般公開するMILスペックをステータスA文書としているがそれ以外は段階的に配布を制限している。これはいわゆる配布制限(Controlled Distribution)スペックと呼ばれ、ステータスA以外のアルファベットが付き、例えば契約業者は契約機関から直接入手するものとされている。なおこれらの配布制限スペックは時代とともに変化し過去入手可能なMILスペックでも現在は入手が出来ない場合やまたその逆のケースも存在する。
 
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