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安全保障機関紙CISTECジャーナルに「NATO カタログ」の記事掲載

2016.8.31

輸出管理の情報誌『CISTECジャーナル2016年9月号』の「特集 / 防衛装備移転三原則」に、弊社による寄稿記事「NATOカタログ制度(NCS)について」が掲載されました。

なお、当ホームページへの掲載は当ジャーナルの発行元である一般財団法人安全保障貿易センター様のご了解を得ております。当記事に関するお問い合わせは弊社までお寄せください。

なお、当記事の複製や転用、再利用、再掲載ならびに販売などの2次利用は禁止されております。

NATOカタログ制度(NCS)について

データクラフト株式会社
代表取締役 服部孝男
NCSアドバイザー

わが国は防衛装備品の海外移転を積極的に進めているが、これら装備品に纏わる技術情報等流出防止策や、知財保護戦略の検討も合わせて行うことが、さらに必要であることが、このほどNATOが開催したカタログ制度の分科会に出席した筆者の考えである。そのためには、今や世界標準となったNATOカタログ制度(以下、NCS)への取り組みを、より一層強化することが喫緊の課題である。そこで本稿は、初めてNCSを紹介するとともに、NCSの根幹をなすNATOストック番号(以下、NSN)やT1(ティアワン)やT2(ティアツー)といった導入レベルについても、できるだけやさしく記載することにした。

防衛装備品の海外移転と知財保護

今や装備品制度の世界標準となったNCSとは何か。現在、米英仏などNATO28加盟国とそのTier2(以下、T2)と呼ばれる豪韓を含めた非NATO諸国の11か国、合わせて39か国はNCS(NATO Codification System)と呼ばれる防衛装備品データベースを共有している。また、わが国を含めたTier1 (以下、T1)国24カ国はNCSの利用はする
が、共有はしない、いわゆる片務的な関わり方となっている。(図1参照)

NATOカタログ制度1

図1

これらNATOとT2(ティアツー)合わせた世界の主要39か国は、自国の装備システムの即応性維持のために可能な限りリアルタイムで、保証された装備品情報の運用を行っている。ひとつでも不良情報があればそれが命取りになりかねないからだ。またコアリション(同盟)体制の下、各国装備品の配備範囲はグローバル・サプライチェーンへと急速に拡大している。

こういった世界のロジスティクス環境の変化に伴い、かねてから米国を中心として開発が重ねられてきたNCSは、NATO諸国はもとより非NATO国をも含めたグローバルな装備品情報データベース化が進められてきた。その結果、現在では世界中から1830万件もの膨大で、かつ詳細な装備品情報の共通化に成功し、また2700万ユーザもの各国の政府機関や民間企業に対してNATO装備品情報サービス(NMCRL)を提供しているのである。(図2参照)

NATOカタログ制度2

図2

わが国は2011年にT1(ティアワン)加盟を果たしたが、主に外国からの輸入品(供与品)を管理するために利用しており、現在においても国産装備品についてはわが国独自の管理体制を敷いている。しかし、装備移転という対外的に新たな政策課題を展開するためには、いくつかの解決しなければならない問題が明らかになったのである。

例えば、わが国政府と民間企業が装備品の国際共同開発を検討する場合、相手国がNATOまたはT2国である場合、すべての装備品をNSN登録(後述)しなければならない。また、そのためにわが国の民間企業は必要な技術情報(図面、試験データ、仕様書など)をSTANAG(NATO規格)に基づいて提供することが余儀なくされている。T1国は自らNSN登録することができないため、移転相手国が代行してすべての登録、維持、管理をしているからである。そのために相手国から、装備品登録に必要な技術情報の提供が求められる。もちろん、そこには双方の合意が前提であるが、知財保護の観点からきちんとした対応が求められなければならない。

次に、装備品に付与される統一番号(これをNSNという)の登録はT1国ではできないことから、移転相手国に提供する技術情報や資料が転用される可能性があり、ここに情報流失の恐れがあるということである。そして、さらなる重要な問題は、知財保護をしなければならないわが国メーカーが、このことを記したSTANAG、いわゆるNATO規格について十分に理解していない点が挙げられる。即ち、全く知らないままに公表され、その内容は技術情報の過剰な公開あるいは誤認情報の可能性もあるということがわかってきたからである。

そこで弊社ではこれら技術情報等の流出防止策を次のとおり認めた。
(1) わが国は早期にNCSのT2国となり、NATO加盟国と同じ情報発信の権限を持たなければならないこと。
(2) わが国は早期に組織を強化し、わが国装備品のNSN運用を促進させる必要があること。
(3) わが国は移転相手国との2国間協議において、これら情報流出の防止協定を締結すること、などである。

豪州や韓国では、T2国としてNATO国と同等に自国品の登録、他国情報の入手、そしてNATO理事会での発言権などがあるが、現在わが国が位置するT1国は登録された他国の装備品情報を入手することはできるものの、自国装備品の登録は他国がおこなう現状にある。既にアジア近隣諸国では豪州は1998年、韓国は2005年にT1国からT2国に昇格を果たしており、その躍進は既に読者の知るところである。

NSN無くして装備品の共有化は成しえない

NCSは米国カタログ制度(FCS)が母体である。NSNはこの2つの制度に共通した装備品識別の最小単位である。米国政府は1953年、NATOを啓蒙し、カタログ制度の導入を奨励した。そして現在では、世界各国への啓蒙活動や共通システムの設置をすべてNATOに任せるようにした。その結果、今やNATO諸国のみならずアジア、アフリカ、南米諸国など世界の63カ国で採用されるようになった。現在、わが国はこの制度に加盟はしているが、NSN登録には至っておらず、従って他国との装備品システムの共有化は実現していない。しかし装備移転のみならず世界の平和維持、災害救助活動等には必須の事案であるだけに、この世界標準のNATO装備品情報システムの本格的導入を早期に実現してもらいたいものである。

NSNは必ず13桁の番号が付与され、物品名、識別データ、管理コード、や性能データなど多数のロジスティクス情報が組み込まれている。NSNの数は米国だけで800万件、NATO全体では1830万件を越す膨大な数となっている。
このNSNの最大の特徴はなんと言ってもこれらNATO国や非NATO国の民間企業により生産される装備品、例えば航空機部品から需品に至るまでの互換品や代替品情報が埋め込まれている点であろう。その結果、NCSに登録されている民間製品の数はこのNSNの数の数倍に昇り、3600万件を越すと言われている。

NSNの頭の4桁は製品分類コード(FSC)と呼ばれ、また後ろの9ケタはNIINと呼ばれ、その内の最初の2桁は国別コードになっている。例えば米国で登録されたNSNは00あるいは01が付与される。また、わが国の国別コードは30が与えられダッシュ30(-30)と呼ばれるが、NSN登録をしていないためダッシュ30のNSNは存在しない。またNSNの事例として、ある米国製車両のガスケットの代替品がドイツのダイムラー社製や英国のBAE社製となって掲載されている。同一のNSNとは、もちろん材質や形状、寸法はすべて同一である。これにより例えば米国製のガスケットが枯渇し、納期に間に合わない場合、ダイムラー社やBAE社のガスケットが取得されるわけである。このようにロジスティクスのグローバル化はもはやすべての装備品を共通化し、共有して即応性や廉価性を追求しているのである。(図3参照)

NATOカタログ制度3

図3

第二次世界大戦では、個々の国々はもちろん、同一国内でも陸海空軍は同一装備品に異なる名称を付けてきた。当時、これらの国では同一品を見極めることは難しく、同一名称による装備品を共有することはほとんど不可能であった。また命名が異なるために、同一品ではなくなり、重複する状況を生むことで、ムダが生じ、戦費も増加した。 このように各々の国や機関が異なる名称で装備品を呼んでいたら、必要な際に別の国や機関から同じ物品を識別して移動させることは不可能である。そこで米国は類似在庫品の増加を抑制するためには、詳しい装備品特性を比較することが不可欠であるとした。 これがNSN概念の創始である。

NATOが提供するNMCRLなどロジスティクス情報の最大の目的は、取得がいつでも、どこでも迅速に行なわれることで、装備品の欠落時間を短縮できることである。が、本当の価値とはNSNに取り込まれた各種要素データにより、在庫の確認、保存期間の識別、交換・代用可能な供給物品の識別、利用可能な代用品の最大限使用、および個別に取得した価格・納期情報の提供により取得予算の最適化、運用システムのライフ・サイクルを拡張し、設計、製造および修理プロセスのためのサイクル・タイムの改善、 機密情報を保護し、多数の調達業者の登録、重複物品の識別援助などが最適に行なえることである。

言い換えると、NSNの最も重要で最も遠大なメリットは、取得要求から保守、そして廃棄に至るまでのライフ・サイクル管理を提供するということにある。 NSNを集積したFLISやNMCRLを通じて世界的に使用され、NSNはもはやロジスティクスの国際語と言われるようになった。

Tier2(T2)昇格は装備移転の攻守の要(かなめ)である

さて、わが国が本格的にNSNを取り込むまでには、解決しなければならない問題が待ち構えているが、装備移転を掲げるわが国防衛装備品行政にとってNSNの運用は避けては通れないデファクト・スタンダードである。そのためには、わが国はできるだけ早期に現在のT1からT2と呼ばれるNATO諸国と同様な、各国と共通した概念と共有する装備品を持つレベルに昇格しなければならない。(図4参照) それがまさしく装備移転事案を具体化し、各国との共同研究や開発、しいては装備品サプライチェーンの共同運用に寄与するものと断言できる。また、国連(UN)における平和維持活動や災害救助活動等において、他国の装備品と共有化できることは、さらなる国際貢献に繋がるものとして大きく期待されるのである。また、そのうえ上記で取り上げたような、わが国独自の技術情報など知的財産を自ら守る体制を敷くことができるのである。

NATOカタログ制度4

図4

では、T2になるためにはどうしたらいいのだろうか。NATO諸国や他のT2諸国と共通したシステムを構築し、維持するために重要なことは、まずその規範となる5つのNATO規格(STANAG 3150, 3151, 4177, 4199および4438)に準拠した概念を導入しなければならない。それは簡単に言えば、今や世界各国に共通した装備品に対する分類、識別、取得、データ管理およびデータ配布に関する統一された基準の採用にある。

また、NATOはこれら規範となるNATO規格を実践するための文書として、英語とフランス語によるNCSマニュアル(ACodP1)を用意している。これは装備品の分類、識別、登録、データ変換などについて詳しく述べた標準化マニュアルとして、全ての加盟国はもちろん、特にT2国になるために必要な知識と実践手段が具体的に述べられている。

T2国になるということは、世界各国と共通化した装備品システムのもと、コスト削減、品質向上、まがい品の廃除、他国とのシステム共有と部品の共通化など、多くのメリットがある。そこでNATOが認定するT2になるための試験(これをT2テストという)を受けなければならない。T2テストについては上記のACodP1に詳しく述べられているが、要約すると以下のように考えることができる。

NATOが管理する世界の装備品DBと各国が管理するその国の装備品DBは互いにNATOが維持管理するNMBS(NATOメールボックス・システム)により双方向のデータ転送が可能になっている。(図5参照)T2になるということは、そこに仲間入りをするわけで、T2テストではこれらNMBS経由でのデータ転送やデータ変換および登録作業をこなしたうえで、試運転ともいうべき2か国以上のNATO国、非NATO国との試験的な双方向データ通信を以て承認される仕組みとなっている。またT2国としてのNCB(国家類別局)が設置され、NATOや各国のNCBと相互に連絡を取りながら、T2以降におこる本格的な運用に備えなければならない。NCBはその国の装備品登録、民間企業登録およびNATOとはもちろん、世界各国からの要請に応える国家機関として重要な役割を果たすことになるのである。

NATOカタログ制度5

図5

装備品というと、安全保障分野における物品に限定されるような誤解があるが、NCSには多くの一般製品や需品が含まれている。近年、海外における危機管理や災害救援に関し、日本とNATOとの間ではHA/DR(人道支援・災害救援)に関する共同研究が発足している。日本とNATOの双方が人道支援・災害救援分野における経験と教訓を共有するとともに,同分野での将来の協力の可能性を検討するものである。そこでは、将来的にはこういったHA/DR活動を通して、日本が世界の平和維持に貢献し、積極的に参加することが求められるが、海外事案にとどまらずに国内外を問わずして、被災したひとびとを救済するための装備品ツールとして、NCSを通じて発展させてほしいものだと改めて念願するものである。