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NATOカタログ制度-Tier2の本格運用に向けて|CISTECジャーナル(2021年9月号)への寄稿

2021.10.20

輸出管理の情報誌『CISTECジャーナル2021年9月号』の安全保障関連の政策動向に、弊社による寄稿記事「NATOカタログ制度-Tier2の本格運用に向けて」が掲載されましたので紹介いたします。

当ホームページへの掲載は当ジャーナルの発行元である一般財団法人安全保障貿易センター様のご了解を得ております。当記事に関するお問い合わせは弊社までお寄せください。

なお、当記事の複製や転用、再利用、再掲載ならびに販売などの2次利用は禁止されております。

弊社ホームページでは、NATOカタログ制度の基本を解説した動画『誰でもわかるNATOカタログ制度(NCS)』を公開しています。当寄稿文と合わせてご覧ください。


チェコ共和国のソフトウエアカンパニーAURA社の日本総代理店である弊社は、すでに日本の防衛装備庁にAURA社製システム(MCC)を導入を実現し、Tier2本格運用に向けた支援を行っております。

関連記事:防衛装備庁がAURA社のソフトウエア・システム(MCC)を導入

データクラフト株式会社は、今後も日本におけるNATOカタログ制度Tier2の本格運用に向けて、尽力してまいります。

NATOカタログ制度-Tier2の本格運用に向けて|CISTECジャーナル(2021年9月号)

データクラフト株式会社
取締役 服部 陽介

はじめに

さまざまなドラマと感動を世界中にもたらしたTOKYO2020。なかでもメインキャストであるアスリートはもちろん、裏方である医療従事者やボランティア等のスタッフが過酷な環境下にあったにも拘らず、遂行され続けた精神力に畏敬の念を感じずにはいられません。

いわば正面戦力であるアスリートたちの能力を、本国から遠く離れた極東の地においても高度なパフォーマンスを発揮するためには、整った衣食住の環境が肝要です。己を犠牲にするようなボランティア精神から来るホスピタリティやおもてなしによって、彼らの偉大な記録が生まれているのです。彼らが日ごろから関係者たちへの感謝を口にするのは、彼らがチームとして後方から支えられていることで成り立っている事実を知っているからです。そこには相互にリスペクトがあることが改めて伺え、華々しい表舞台の裏には堅牢で安定した土台があってこそ、初めて成立する構造であると改めて感じさせられた次第です。

このことは華々しい正面装備の後方には安定的な支援が存在しなくてはならない、という当記事の本論に通ずるところがあるので紹介させていただきたい。需要に合わせた形で安定供給する、ということはいかなる分野においても完成形の理想像として存在しているのです。

オリンピックの話に戻り恐縮ですが、ボランティア精神がよく顕れている興味深い記事を目にしました。開会式の当日、スタジアム内のネットワーク接続環境に問題があると気づいた日本のボランティアがコンビニで購入したケーブルを手に外国記者の間を駆け巡っていたというのです。この記者の短信だけでは深くは読み取れませんでしたが、日本のボランティアが献身的な姿勢であることの一端を示すには十分な記事でした。

実は、この記事が私を引き付けた理由はほかにあります。それはボランティアの即応性に関する能力および購入までのプロセスです。ボランティアたちは現場で何が起きたかを知り、正面戦力(この場合は多数の外国記者)がパフォーマンスを維持するためには何が必要であるかを判断し、最終的に解決するための行動に移すことができました。記事によればコンビニが補給路を担ってくれたようですが、その補給路に気付くまでにどのような経緯があったのか、あるいは何らかの手段にて予め知っていたのか、いずれにせよ現場での即応性が窮地を救ってくれたのです。

さて、閑話休題、本稿の主題であるその補給路について「予め知って」おくための機構、NATOカタログ制度(NATO Codification System以下、NCS)について触れていきたいと思います。現在、日本はNCSと呼ばれる国際的な制度に参画しており、昨年度「Tier 2」と呼ばれるレベルへの昇格が承認されました。以降、その本格的な運用が開始され、現在NCS仕様への変革が行われる過渡期にあります。そこで本稿では参画以前まで運用してきた日本固有の制度と国際的に運用されている制度の狭間における影響や課題などを、一関係者の立場から述べたいと思います。

NCSとは

まずは簡単にNCSについて概述します。

NCSとは、北大西洋条約機構(以下、NATO)が多国間で相互に品目データの取り扱いができるようにしたプラットフォームで、NATOが運営している公式な多国間事業です。当初はNATO加盟国間での事業でしたが現在ではNCSに協賛する非NATO加盟国も含めた計65ヶ国が参画しています。NCSは「相互運用性(Interoperability)の向上」をスローガンとし、多言語間および多組織間における一品目に対する呼び名の違いによる取り違いを無くすことを目的としています。その目的を達成するための取り組みとして、「調達実績のある物品の識別情報」と「その製造業者情報」を対象とし、さまざまな製品、部品などの同等品を一つの通し番号(物品番号、以下、NSN)の下に取り纏め、一覧管理をしています。NSNには連なる製品が同等品であると定義する、製品の種類ごとに素材や形状などの特性値データが収録されています。この通し番号であるNSNを軸として、各国での調達実績のある物品情報(部品番号等)や製造者情報また調達の可否などの情報が利用者各国における調達や在庫管理など有益な参考情報として用いられています。NCSは米国における連邦カタログ制度を基軸として採用されている制度で、この取り組みが開始されたのは1953年であり、以降制度自体も最新技術を採用しながら改訂を繰り返し、現在まで継続的に遵守され続けています。今日においてはインターネットを駆使しながらリアルタイムでの情報の管理が可能となっており、マスターデータの最新性を保ち、共有し続けることこそが自他国の物品の「相互運用性」を高める礎となり、それが組織化されたNCS協賛各国への貢献の形となっているのです。

図- NSNに含まれる情報量

日本の類別業務

日本では従来から独自の類別業務を行ってきました。そこでも米国が採用している連邦カタログ制度が基幹となっており、NCSとの親和性は高いことがわかっています。しかしながら、日本独自の規則の下で運用されていた点でNCSとは異なり、いわば地産地消の如く、作られた類別情報は日本国内のみでの運用となっていました。この類別情報は自衛隊におけるロジスティクスシステムに用いられ、物品管理業務の重要な要素である識別情報として運用されています。

日本とNCSの関わり合いについてですが、既に10年前にはNCS制度への参加表明を果たしており、「Tier 1」レベルに在していました。この「Tier 1」レベルでは「他国が作成した情報を使用」する権利を有している一方で「自ら作成した情報を発信」する権限がありません。言い換えれば、自国産業で製造された物品であったとしても、それに対する発信権限がなく、発信権限のある調達国が代行して発信を行うこととされているのです。つまり、日本は物品を調達されたとしても日本はNCSにおいてその物品に対して識別情報をまとめることができず、調達した国が実施しなければなりません。一見、日本側の作業が不要なため喜ばしいように思えますが、その代償として、調達国は製造元に対し製品の情報収集を行うことが規定されており、日本はその情報の内容や収集の是非について自国の製品であるにも関わらず、閲覧する環境のみが与えられることとなっていました。

この片務的な環境下では輸出を推し進める上では役不足であり、また不用意に類別情報の開示が可能となる環境などに対する懸念から、日本では5年ほど前にNCS上におけるNATO加盟国と同等の権限を有する「Tier 2」レベルへと昇格をするための取り組みを開始し、環太平洋諸国を中心としたNCSの国際セミナーである太平洋地域物品便覧システム会議(PACS)の日本での開催、NATO主催主要会議への参加や他国の類別担当部署(以下、NCB)との個別の交流、国内関連企業への周知活動など、国内外への意思表示を継続的に行ってきました。

「Tier 2」レベルではNCSにおける権限と責務が「Tier 1」レベルに比べて増えます。それまで用意されていた閲覧のみが許された環境から、自らが発信できる環境へと身を置くことになり、そのデータは他国が活用することになるからです。そのため、「Tier 2」レベルにおいては発信するデータの質が問われます。またNCSでは物品データの他にも双方向で様々なやりとりが行われており、これに耐えられるシステムや人員に能力が有されているかを事前にテストされ、合格する必要もありましたが、日本ではこのテストを最短期間で準拠することができ、その結果昨年より「Tier 2」国としての活動を開始しています。これにより、それまで作成されてきた日本固有の地産地消のデータが、NCSにおける多国間での相互運用性の向上、また補給路の可視化に生かされることとなっています。

過渡期において
現在、「Tier 2」レベルへ昇格しましたが、実務レベルでは従来の類別業務に加え、NCS業務の双方を並行して実施しているのが現状です。作業労力は単純計算で2倍となり、このままでは労力の逼迫に伴う作業効率、質、量の低下に導かれ、国内後方支援関連業務やNCSを通じた他国業務へ影響を及ぼす可能性が懸念されます。そこで、この過渡期から脱却するためにNCSを主に据え、類別業務の国際化に軸足を置いた国内の諸制度、諸要領の変更が必要になると言えます。

そのためには、NCSで規定される制度と従来の国内制度の比較を行い、変更しなければならないこと、新たに取り入れなければならないこと、またその結果、さまざまな組織との関わり合い方を見直すことが要点となります。本来、類別業務は単独では十分な効果は得られず、物品管理や再調達などの際に用いられることが前提となっています。つまり、類別行為は物品データの源流であり始点であると言えます。そのため、その制度が変わることでその源泉である民間企業や、貯水池として表すことのできる国内外NCS業務、支流となる後方支援関連業務に影響がもたらされることが考えられます。そこで今後の目標として後に大きな余波を起こすことのないよう、考えられる3つの課題を下記に示します。

①国内基準の再設定
・データの開示と非開示について
現在「Tier 2」としての活動を継続するに当たり、これまで行ってきた日本固有の類別業務からの段階的な移行が計画されています。現在は並行的に作業を実施する過渡期にありますが、これまでの自国で作成されてきたデータの取扱い、特にNATOマスターデータを含む他国へのデータの開示と非開示に関する基準の策定や今後の運用方針を細かに定めていく必要があると考えます。すべてを非開示としてしまえば基準の策定は不要であるものの、本来の目的である相互運用性の向上に資することが期待できないためです。

また、「Tier 2」となったことで他国から日本製品に関する品目の類別依頼が届くことになります。NATOマスターデータに存在していない物品については、その産出国のNCBにおいて調達国の依頼に基づき、類別作業を行うことが規定されています。例えばフランス(仏)にて日本企業の製品が調達された場合、仏NCBはNATOマスターデータに当該製品の有無を確認した後、産出国である日本NCBに対して類別作業を実施するよう依頼をします。日本NCBは、この依頼に基づき、必要に応じ製造業者に確認を行いながら、識別情報を作成して依頼元である仏NCBへ返送し、NATOマスターデータに収録するという流れが一般的です。

日本が「Tier 1」であった時は、仏NCBは日本NCBに対して類別依頼を送ることはできませんでした。上述の通り「Tier 1」は情報の発信ができないためです。その場合、識別情報は調達国である仏NCBによって作成されなくてはならず、仏NCBは製造元である日本企業に対し、識別情報の作成のため当該製品に関する技術情報の提供を求めます。あるいは最終製品が仏製であったとしても、下請けとして日本企業が含まれていた場合には主契約者である仏企業はその技術情報の収集が命ぜられ、日本企業から情報を入手しなくてはなりません。ここでは仏企業と日本企業との直接的なやり取りが行われることになり、日本NCBの介在はありません。その際に保全情報の確保をどうするかという問題が生じますが、システム構造的にリアルタイムで検証できる仕組みはなく、製造元を知財流出から守る枠組みもありません。そして、そのような事象が判明するのは情報を他国へ提供し、誰しもが閲覧することのできるNATOマスターデータに掲載された後であり、最悪の場合には情報が掲載されていることすら気付かぬまま、公開され続けるというケースも考えられました。

しかし、「Tier 2」となった今、製造元の在する国家のNCBにて類別作業を行うことがNCSで規定されていることから、識別情報の作成の名のもとに他国から製造元に対して直接、技術情報の提供を求めることはありません。これは例えば設計図などの製品に関する重要な情報を他国へ渡すことなく類別作業を実施させることを意図しており、製造業者の情報を保護することを目的としています。そのため、類別作業にふさわしくない、あるいはNATOマスターデータに収録されることが望ましくない場合には、この依頼を却下することも可能な措置の一つとして規定されています。そこで新しく「Tier 2」となった日本として、そうした措置をどのような状況で用いるかなどを論議し、普及させる必要があると考えます。

ちなみに、こうした依頼に対応する作業には直面する担当者のみではなく民間企業や様々な関係者が係ることから、一部の国では、依頼処理は有償で請け負う、としている場合もあります。あるいは当該依頼国には情報を共有するものの、無関係な国や組織に対しても開示されてしまう可能性のあるNATOマスターデータには必要最小限な情報しか開示しないような措置をとっている国もあります。

このようにNCSのもとでは各国が「Tier 1」と「Tier 2」にレベル分けされ、データ授受の権限がそこに示されているだけのように見えますが、実はその国の性質や産業規模などにより適切な開示が可能となっているのです。故にNCSには様々な国が集うことからも、こういった各国固有の事情や措置に対して「こうでなくてはならない」といった規定をすることは少なく、各国の裁量に応ずるとして一定の自由が設けられているため、日本においては日本として自主的な規則づくりを進める必要があると考えます。

・何を載せ、何を載せないのか
更に、規定とは別に掲載方針の策定を行う必要があると考えます。NCS協賛国ではすべての物品についてNATOマスターデータに掲載している、ということでは必ずしもありません。流通、企業、機密などの個別の事情により掲載が望まれない物品も存在し、それらは国内向け後方支援系システムには登録されたとしてもNATOマスターデータへの掲載を回避しているものも存在します。掲載を回避する情報は物品の一部特性情報であったり、製造者に関する情報、あるいは物品データ自体そのものであったりする場合もあります。日本においても、これからはもちろん、これまで作成してきたデータについてもそのすべて公開する義務はなく、規定もありません。

このように外国からの依頼に基づいて作成した情報および地産地消として有している情報に対し、公開/非公開の基準を個々に細やかに策定する必要があると考えます。もちろんNCSで取り扱う対象は調達実績のある製品ですから、日本で運用経験のある物品が対象となります。例えば国産の戦車などの自衛隊向け陸上車両の掲載は適切であるか検討をする必要があると考えます。また、式典用に関連する被服などの装備品のような用途の限られるものについても、公開によって得られるメリットは少ないことが考えられるため掲載には不向きでしょう。少なくともNATOマスターデータに記載されずとも、後方支援系システムにて管理されているのであれば国内調達には支障はないためです。

筆者は、日本のみで使用され続ける物品であるか、他国で調達される可能性があるのか、あるいはそもそも輸出することができる物品であるのかを分析した上での判断が望ましいと考えます。

②CCCとNCAGE
・CCCとは
上述したように、日本が「Tier 2」となったことで物品類別のための自社製品に関する情報提供を他国へする必要がなくなりました。納入先またはNCBへ必要情報を提供すれば良くなったわけですが、この情報を提供する行為については、契約時に取り交わす仕様書等の資料に規定されているかを確認すべきだと考えます。NATO諸国では契約時の引用資料の一部として、情報受渡しに関する契約を定義する標準化協定(STANAG)を呼び出しており、類別契約条項(Contract Clause for Codification、以下CCC)として定義されています。CCCでは、情報提供は類別作業のためだけに行うことが明記されており、その目的は情報提供者である民間企業の情報保全を強く守るためであり、NCS規定においてもその必要性が説かれています。

また企業はこのCCCを締結した上で、情報提供を行う際に記載事項の一部情報の非開示を要請することもできます。それは類別作業目的の情報提供とはいえ、不要な情報や、機密性の高い情報を含む一次資料を提供する場合があることを想定しており、そのような場合には非開示とすべきとして事前に指摘した上で提供することが推奨されています。

Tier1国(CCCなし)における技術データ提供の流れ

Tier1国(CCCなし)における技術データ提供の流れ

Tier2国(CCCあり)における技術データ提供の流れ

Tier2国(CCCあり)における技術データ提供の流れ

図 – Tier 1およびTier 2による技術データの他国への提供経路

ところで、NCS分野の各会合において度々目にするのは官民組織間の「リエゾン(関係、連絡)の形成」に関する言及です。政府機関からすればNCS運用は民間企業の協力が必須であり、時に取り扱う情報はセンシティブにあたる場合があります。一方、民間企業からの視点からすれば情報の行く先は政府機関の管理システムであり、その提供に対する必要性は乏しく縁遠いものに感じるでしょう。ましてや取り扱うのは自社の製品データであり容易に提示し得るものでもないためです。この「リエゾンの形成」には形式的および実質的な手段がNATO諸国およびNCS加盟国では用いられているようです。

一つは文書上の取り交わしである上記のCCCが挙げられます。いわゆる契約条項、特約条項の一部としてその目的や手段などの定義が明確に示されており、類別作業に必要な情報の提供及びその取扱について、供給者との間で合意を取り交わすために用いられています。これにより政府機関視点では情報の取得が定義され、民間企業からすれば適用区分が明確となっていることから情報保全上のリスクを計ることができます。

そのため、提供した情報のどの部分がどこへ行き、どのように活用されて誰が見られる環境にあるのかが十分に示されるような汎用的な基準を策定することが望まれます。

他方、NSC加盟国の間では実質的なものとして定期的な交流が挙げられます。民間企業から得た情報がどのように運用されているか統計データを用いながら定期的に共有し報告を行っています。例えば、同等品の存在が異なるNSNと競合している場合には統合される可能性に関する展望や、また他国のNCBから調達実績があり当該NSNに対してアクセスがあったことの事後報告があり、あるいはNCAGEに記載されている企業情報の再確認を促したりすることができるのです。

こうした定期的に相互の連携が取れるような距離感を保つ努力を怠らないことが「リエゾンの形成」に一役買うとして各会合において推奨されているのです。

・NCAGEについて
物品に関するデータのやりとりはこれまでに言及したとおり、様々な依頼や処理が各国NCB間でやりとりされます。それに加え、物品の製造、販売をおこなう民間企業などの組織データについても同様にNATOマスターデータに収録されます。ただし、物品のデータと異なり、組織データの作成や保守を行うのは民間企業自身とされており、各民間企業においては所在地情報や連絡先などを適宜更新し続ける必要があります。というのも、NATOマスターデータに収録される物品を確認し、調達交渉などの理由でその組織に対して連絡を行うために備えられている「連絡帳」の役割を担っているため、誤った連絡先を入力したままにしてしまうと折角の販路拡大の機会を逃してしまう可能性があるためです。通常、加盟国では年に一度程度内容をチェックし、必要に応じて更新する作業を行っています。

なお、その組織データは日本が「Tier 2」国となったことでNATOからの要請に基づき、これまでの”S”を頭文字としたSCAGEと呼ばれる5桁のコードから頭文字を”J”から始めるNCAGEというコードに変換されています。SCAGEはNATOが管轄することを示すものであり、「Tier 2」国になった際には自国専用のNCAGEを新たに「1NCAGE = 1組織」に割り当てることで、これまでのSCAGEを整理することが要請されています。これは民間企業が防衛省に対して納めた場合のみならず、過去に他国(NCB含む)へ納め、該当国NCBが類別する際に組織データを必要とした場合も対象となっているため、民間企業は自らがどのような扱いになっているのか確認する必要があります。確認についてはNATOマスターデータの持つ組織データへ直接アクセスをし、検索をすることで可能となります。次にアドレスを示しますので確認の一途にお役立てください。
https://eportal.nspa.nato.int/AC135Public/CageTool – NCAGE Code Request Tool)

こうして物品と組織のデータをまとめて有するNATOマスターデータは非常に膨大なデータを扱っており、物品数にして1800万件ほどのNSNが存在しています。そのNSNの下には複数の民間製品が計4000万品目弱連なっており、300万件の関連組織データを収録していることから、世界規模でどれだけの物品が調達されてきたか目の当たりにすることができます。

民間企業にとって、このマスターデータを競合品に関する市場調査として活用することも有用であると国外では認識されています。NSNには調達されてきた各国各社製品が並ぶとともに、その要求元である調達国が物品利用者として示されています。例えば、21インチの汎用液晶モニタに対しどの国が調達し、どの製造業者が提供してきたかが一覧できます。同等製品の製造業者からすれば、ここに示されるすべての国名は潜在的な顧客として見ることが可能であり、また、ここに示される民間企業やその製品は競合であると見做すことも可能となります。

更に、NSNは最終製品のみではなくアセンブリ、構成品、部品にまで付与されるため、世界的に展開されている最終製品に対する部品を日本国内のみに流通している民間企業にとっては、このNATOマスターデータに収録されることで販路拡大につながります。それが例えライセンスの与えられた製造品であったとしても、調達国側からして品質、納期など魅力のある補給路であれば検討の対象から外れることはないのではないかと考えます。

同様に、即時性の求められる状況下においてもNATOマスターデータに対象物品があることで調達国からの選択の機会があります。過去の事例として、ある国が他国における任務にて車両用のエンジンオイルを調達しなければならなくなった際、NSNに記載されている識別情報を基に利用可能であるオイルを確認し、他国のサプライチェーンを活用しながら調達されたという実績があります。これは、自国サプライチェーン範囲から外れるような派遣先などにおいてコスト及びリスクを削減するのに役立ち、更にこの場合においては対象がエンジンオイルであったことからも取り扱いに注意を要するリスクが低減されたことから、識別情報の良き使用例として広く認知されています。

このように、民間企業が自社データを提供することで65ヶ国が閲覧できる環・新しい基準(RN Codes) について
更に、調達実現性を高めるための参考情報として、NCSで使用されている部品番号コード(以下RNコード)が有用とされています。このRNコードはNSNに記載されている製品番号と製造者組織の関係性を示しており、また、その製品の調達可用性をも示しています。調達検討の際、RNコードを参考にしながらNCAGEを通じて製造元から調達の可否について事前に確認することができます。比較可能である異なる調達先が示されているようであればリードタイムなどを検討しつつ、直接相手先業者に掛け合いながら選定を行うことも可能となります。再三述べている通り、ここには他国での調達実績がある製品しか並んでいないことから、十分な参考情報に資するのです。
境が用意されているのです。それは企業の営業的視点から見てもやすやすと見過ごすことはできない広範な範囲ではないでしょうか。もちろん、存在する様々な懸念を払しょくするためにはNCSへの理解と書面上での約束事は欠かせないため、リエゾンの形成のための第一歩が待たれるところです。

図- 世界各国のNCS参加状況

図- 世界各国のNCS参加状況

③調達と相乗作用
他国においてNCSを通じて得たデータを元として調達がかかる、ということは過去に作成されたデータが後方支援系システムに連携され、調達時の参考情報として用いられているという構造であることがわかります。そしてそれは時間の経過に伴い追加される情報によって物品データが育ち、調達可能である組織が世界に複数存在するというケースもあります。そのような場合、それらは競合品となることからどれを選定すべきか検討を要しますが、同じNSN下に連なるこれら製品は他国での調達、運用実績のある製品であることから、いわゆる「紛い品」を掴まされる可能性は低く、調達実現性は高いものとなります。更に、情報の将来継続性を鑑みれば調達再現性も高いと言えます。そういった面からも調達時の参考情報として用いられているのが現状です。

図 - NATOマスターデータ(製造番号、NCAGEとRNコード)

図 – NATOマスターデータ(製造番号、NCAGEとRNコード)

こうして各国から集約されたデータの使い道は各国に委ねられていますが、これまで述べてきたとおり、情報の更新性、継続性を重要視すると一国のみで管理するデータよりも、多くの国でお互いに補完し合えるデータの集合体の利用価値について改めて認識しなければならないはずです。

また、余談ではありますが、このマスターデータは各国NCS関係者のみならず、民間企業であってもNATOのサブスクリプションサービスを利用することによって閲覧可能です。もちろん自社の製造者情報や、製品情報のNSNがどのような扱いをされているかも閲覧可能であり、自社製品の同等品の有無についても確認ができます。そのため、官民双方の品目に関する情報の連携基盤としての役割も担っていることも付記します。

・他国への依頼とデータ
NCSでは他国と繋がることを可能とし、お互いに情報を共有している体制により、後方支援関連業務との連携が確立されています。その顕著な例として、ここまでは依頼を受信するケースを中心に扱ってきましたが、ここからは他国に対して依頼を送ることを取り扱います。もちろん、日本が他国から調達した供与品等が対象であり、これまでの地産地消データからの変化を最も受ける項目と言えます。

「Tier 2」国となったことで日本はNATOマスターデータに記載されていない物品について類別作業を産出国NCBに対し依頼することができます。これにより、データの質・量共に担保された情報を相手国の作業によって労せず得ることが可能となりました。

更に一度作成された物品データは、NATOマスターデータに収録された後に常に更新情報の対象となる他、「1物品 = 1NSN」の理念が故に、重複の検証対象ともなります。NATOマスターデータ内では、複数物品が同等品であるにも関わらず、それぞれのNSNを保持している状況は好ましいとされていません。もし、類別の依頼を他国に対して発信した場合、重複したNSNを作成することは許されないことから、依頼を受けたNCBでは自国データベース内の物品と重複の可能性をくまなく探さなくてはなりません。結果、もし既存のNSNと重複があると報告されれば、依頼国としては同等品を知ることにもつながります。更に、NATOマスターデータを管理するNATO担当部署においても定期的にNATOマスターデータ内の重複物品に関する点検を実施しています。この対象は一カ国のデータベースではなく、マスターデータ内に登録されているデータであるため、第三国のデータとの重複の可能性を指摘することとなり、上述同様、依頼国からすれば世界規模で同等品を知ることが可能となります。これは、一つの補給路が廃業などを理由として絶たれたとしても異なる経路からの調達の可能性を示すものとなるため、非常に重要な情報源となります。

図 - 1物品 = 1NSN

図 – 1物品 = 1NSN

もし、従来通り、地産地消として供与品等に対する識別データの作成を自前で行った場合、当然ながらこのNATOによる検証の対象とはならず、継続的な更新は期待できないですし、重複があったとしても検知できません。結果的にその場限りの情報となってしまう可能性が高いです。再び調達を行う際には製品番号が異なっていたり、製造業者が合併などによって名前を変えたり、廃業や製造権限を他の組織に委譲している可能性もあります。そのような場合には情報の継続性を失ってしまっていることから旧情報による調達が不調に終わり、一から情報収集を行わなくてはならず、場合によってはその継続性を証明するために奔走しなくてはならないという本来必要のない労力を費やす必要性が生まれてしまうのです。そういった補給路の損失阻止、情報の継続性の確保が「Tier 2」国家となることで受けられる大きな恩恵のうちの一つと言えるでしょう。

これまで「地産地消」で作っていたデータのうち、海外製品については海外データを享受していくこととなります。企業同様、データ自体も改廃統合されていく中で、時系列の一部分を切り取ったデータは更新性に乏しく、上述の通り、必要な時には既に無効なデータとなっていることもあります。しかし、NCSを今後活用していくことで継続的な情報収集が可能となり、補給品の調達や管理に携わる負担も軽減されることが期待できます。また、後方支援系システムとの連携を取り、NCSで得られる情報を活用することで海外の情報を可視化することもできるようになるでしょう。こうした、既に用意されている利益をどのように受け入れ、どのように後方支援機構に組み込むのか、それが調達の効率化につながることを願うばかりです。

海外での活用事例
NATOではNCSがもたらした利益実績を調査していますが、これはNCSがNATO加盟国だけではなく、非加盟国も参画する事業であることからもその影響の度合いを測るために実施されており、調査報告には様々なケースで利点をもたらしていたことが明らかとなっています。在庫管理や調達価格の適正化や調達リードタイムの短縮、他国サプライチェーンや在庫の活用などが主な利点として挙げられており、これら複合的な利益と機能性を提供でき得る代替案はないと結論付けられるほどです。特に、地域により言語は違えども多国間で取り扱われていることから、単一の国家ではなし得ないほどの実質的な利益が伴うものとして補給面での他国との相互運用性をもたらし、マスターデータの拡充による自国の在庫肥大を合理化させる効果だけでも類別分野に投資するだけの正当性は成り立つという調査結果が英国によって報じられています。参考までに興味深い事例を下記に列挙します。

・事例
1. 英国では在庫構成の見直しにNSNを用いることによる管理体系を実践した。たった3品目を先行試行の結果、64,000英ポンドの削減が認められた。この結果を以て、残りの他のタイプのすべての車両に対し、合理化を推進した。

2. NATO軍ではその協賛国間での在庫の共有を確立しNSNを識別要素とした。例えば米国は一部特定航空機が60日を超えて運用不可な状況であることに頭を悩ませていたが、相談を受けたNAMSA(旧NSPA)は24時間以内に品目を特定し、代替品をノルウェーの在庫から入手することができた。

3. 英国は自軍の派遣時、式典用海軍制服向けのボタンが保管されていることを確認した。しかし既存のボタンに関するNSNに対して誤ったNSNを付与したことが判った。その結果、さらに問題となったのは元のNSNを必要としていた車両に対する影響であり、最善のパフォーマンスができなくなる可能性がでたことであった。

4. 英国は歴史的に海軍補助艦隊では在庫内の品目の類別は必要とされていなかったが、艦船への様々な影響(不適正な在庫状況、支出過剰など)をもたらすことが認識された。これにより英海軍補助艦隊での45,000種類以上もの品目に対して類別作業を開始した。およそ25%の品目については既にシステム上に存在していることが判り、結果としてそのデータを国防省に統合することで数百万英ポンドの節約を継続的に受けることとなった。

結び

冒頭に示したTOKYO2020の話に立ち返りますが、結果として、日本の補給路を通じて外国記者たちが直面していた問題は解決され、記事を本国に送ることができました。そして記事ではそのホスピタリティが称賛されています。これは前線が十分なパフォーマンスを発揮するために、例え制限された環境下においてもボランティア・スタッフが活躍できたことを示しています。

ただ、コンビニでケーブルを入手できることをスタッフが予め知っていたのならば、その通信速度や長さなどのスペックデータがわかっていたとしたならば、その入手に至る意思決定は早々に終えることができたのかもしれません。あるいはネットワーク接続環境が悪かった場合の対応マニュアルの一部として事前に計画に入れることすらできたかもしれません。その場合には入手に至る所要時間を事前に考慮し、事前に在庫として手配しておくべきなのか、あるいはコンビニではなく異なる家電量販店を購入先として加えるべきなのか比較検討できていたかもしれません。そもそも有線接続ではなく無線接続による解決法も導き出せたかもしれないのです。

これらは予期できる事象としての結果論であり、すべての「かもしれない」を予見することは困難であることは知っています。ただし、検討の土台となるような信頼できる情報源を押さえることは、平時はもちろん即応性を要する事態においても様々な意思決定に至る速度を向上させることが期待でき、より確信に近い状態で対処に臨めます。これにより、少なくとも、即座の対応が求められる中でゼロから対応策を講じなければならないというような不安定な状況にはなりません。

本稿では大きく3つの可能性を示しました。日本として民間企業を含む国内外関係組織に対し、①どのようなスタンスで臨み、②そこで構築した関係性に基づいて得られた情報をどのように活用していき、そして、③どのように還元できるのかです。NCSではそれに関する規定はありません。しかし、その良し悪しのわかる過渡期である今でこそ、利益の享受とリエゾンの構築を目指した整備が為されることを望む次第です。それこそが最前線における最大限のパフォーマンスを引き出す礎になると信じています。