MIL認定試験機関への申請について
2009.6.15
米国防衛技術輸出の強化とわが国企業の動向
最近、わが国企業のMIL規格品への認定試験申請が相次いで起案されている。弊社にも認定機関やテスト・ラボ、あるいはその申請手続きなどの調査依頼が多い。しかし、その一方米国政府は防衛技術の技術移転規制を強める傾向にあり、米国政府が指定する国防物品については事前の承認、許可ならびに申請を必要とするものが多く注意が必要である。わが国企業は従来からの防衛産業にとどまらず、今後多数の民間企業が参入していくものと思われるが、これらの米国法を事前に理解し自らの輸出管理システムを構築、強化することが求められている。【DCメール】 2009年6月15日号 No.247
■ITARをまずはクリアしなければならない。
9.11テロを境に、この厳しい貿易管理体制は益々強化されているというのが専門家の見方である。特に米国は近年、防衛品や防衛技術の中国流出が、大きな懸念として認識されているが、その他北朝鮮、イランといった懸念国が存在し、警戒感を強めている。わが国の民間企業は新たに防衛産業、なかでもわが国では非軍需品と呼ばれる分野に進出する動きがあるが、米国政府ではこれらを国防物品としてその解釈を大幅に拡大しているだけに事前の注意が肝心である。
たとえばMIL規格品が米国政府のいう国防物品に該当する場合、米国務省が管轄するITAR(国際武器取引規則)が関与する。このITARは米国法であるCFRのTitle22 CFR Part120-130に相当する国防貿易管理法である。一例をあげると、某MIL規格に準拠した試験装置や実績を持つ米国の試験機関では国内外のメーカーからの製品(防衛装備品)の認定試験を依頼されるが、その場合ITARを事前にクリアするかどうかが受理する条件となっている。
ここで簡単にITARについて紹介しよう。ITARでは防衛物品(防衛装備品)の定義づけをおこない、ITAR準拠の必要・不必要を判別している。そしてすべての米国企業や機関は外国向けの防衛装備品貿易に対して事前の申請あるいは許可、認定を国務省から受けていなければならない規則となっている。このなかには物品だけではなく、あらゆる役務(サービス)として国防物品の設計、開発、工事、製造、生産、組立、テスト、修理、保守、改造、操作、非武装化、破壊、処理若しくは使用において、外国人に(国内におけるか国外におけるかを問わない)援助(訓練を含む)を提供すること、が含まれている。
■国防物品とは
ここでいう国防物品とは、米国国務省が指定する品目又は技術データをいう。この用語には、指定される品目に直接関連する技術データを明らかにする物理的な形態、モデル、モックアップ又はその他の品目に記録または蓄積された技術データを含む。それには、機能若しくは用途又は一般的なシステムの説明についての基本的なマーケティング情報は含まないとしている。
■軍用重要装備品
軍用重要装備品は、重要な軍事上の有用性又は能力に係るキャパシティのため、特別な輸出規制が是認される物品をいう。
■国防主要装備品
武器輸出管理法により、国防主要装備品は、米国軍需品リストに掲げる軍用重要装備品の品目であって、特別研究開発費が5千万ドルを超えるか、総生産費用が2 億ドルを超えるものをいう。
■国防サービス
国防サービスは以下のものをいう:
(1) 国防物品の設計、開発、工事、製造、生産、組立、テスト、修理、保守、改造、操作、非武装化、破壊、処理若しくは使用において、外国人に(国内におけるか国外におけるかを問わない)援助(訓練を含む)を提供すること;
(2) 本副章のもとに規制される技術データを外国人に提供すること(国内におけるか国外におけるかを問わない);または
(3) 外国の部隊及び軍隊の定期的及び不定期的な軍事訓練(米国内若しくは国外において外国人の公式若しくは非公式の教育を含む)或いは通信教育、あらゆる種類の技術、教育若しくは情報刊行物及びメディアによるもの、訓練の援助、オリエンテーション、訓練演習及び軍事アドバイスを含む
■技術データ(a)
技術データは以下を意味する
(1) 情報で定義される(ソフトウェアを除く)であって、国防物品の設計、開発、生産、製造、組立て、操作、修理、試験、保守又は改造のために必要なもの。これには、青写真、図面、写真、計画書、指示書又は文書の形態の情報を含む。
(2) 国防物品及び国防サービスに関する機密情報;
(3) 発明秘密命令の対象となる情報;
(4) ソフトウェアであって、国防物品に直接関連するもの;
(5) この定義には、一般的な科学、数学若しくは工学の原理に関する情報であって、学校、単科大学及び総合大学で一般に教えられているもの又はパブリックドメインにある[だれでも許可なく使用できる状態にある]情報については含まない。国防物品の機能又は用途又は一般的なシステムの説明についての基本的なマーケティング情報についても含まない。
■パブリックドメイン
パブリックドメインとはだれでも許可なく使用できる状態にあることをいう。一般的にパブリックドメインに対しては
(a) パブリックドメインは、公開されている情報であって、以下の手段を通して広く一般に入手可能又は利用可能となっているものをいう:
(1) 新聞売場及び書店での販売を通して;
(2) 公開されている情報を入手若しくは購入することを願ういずれの個人にたいしても何ら制限なく利用可能な申し込みを通して;
(3) 米国政府により第二種[定期的刊行物]の特権を与えられた郵便物を通して;
(4) 一般に開放されている或いは一般の者が文書を入手することができる図書館を通して;
(5) 特許局で利用できる特許を通して;
(6) 米国内で広く一般の人の参加が可能な会議、ミーティング、セミナー、見本市又は展示会で制限のない配布を通して;
(7) 審理権のある米国政府の省庁又は機関による認可の後に、何らかの形態で(例えば、必ずしも出版される形態をとらない)、パブリックリリース(すなわち、無制限の配布)を通して;
■わが国企業に求められること
このように、今わが国民間企業には、改めて安全保障の観点から、米国の技術移転に関する問題を適切かつ厳格に管理することが求められているといえよう。防衛技術の分野において米国は圧倒的に優位に立っている。わが国では前例がなくとも、米国では当たり前であることを十分に認識したうえで準拠しなければならない分野なのである。たとえばITARでは「みなし輸出やみなし再輸出」といったことも規制対象とされていることを知らなければならない。
この「みなし輸出」とは米国内であろうが、海外であろうが、外国人への情報開示は外国人の母国への輸出とみなすこととしている。これは例えば、米国企業の社員から日本人が武器部品の図面を見せることは日本への「みなし輸出」として米国企業は事前に米国政府の許可を要するということである。
また「みなし再輸出」とは技術導入を図ったわが国企業がそれを国内で従業員である第三国人に開示する場合も、同様に規制対象となるからである。
このようにして、わが国企業は米国等の輸出規制動向にも注意を払いながら法令順守プログラムを策定し、確固たる輸出管理体制で臨まなければならないとされている。既存の防衛産業界では当たり前のことではあろうが、今後参入が見込まれる民製品分野においてはそういったことを十分に視野に入れた計画を望む次第である。
なお弊社では本件に関する個別調査依頼を受け付けている。
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