MILからAMSへの移行問題③
2009.9.1
DCメールでは過去2度にわたりMILスペックからAMSスペックへの代替(移行問題)について調査結果を報告してきたが、今回はその3回目としてこれらの現状報告と新たな事例を紹介する。DODによればMILスペック改革により大量のMILスペックをSAEに移行したが、いまだに手つかずにある案件も数多い。わが国のスペック・ユーザにとっては移行されたか、されないかは、契約上の問題に関わるだけに気になるところである。今回は弊社がDODとSAEに調査した3つの事例を挙げてその問題点について報告する。【DCメール】2009年9月1日 No.252
【事例1】MIL-A-8625とSAE-AMS-A-8625
DCメール2001年5月1日号(No.53)にて紹介した上記スペックの移行問題は、MILからAMSに移行されたのではないかという噂があったので早速調査したところ、DODとSAEの見解にずれがあることがわかり、ともかく弊社からの問題提起で双方が話し合いをする予定となった。
このMIL-A-8625は表題が「ANODIC COATINGS FOR ALUMINUM AND ALUMINUM ALLOYS」で当時F版が最終版であり、ACTIVEとして掲載されていた。一方SAEに確認すると、このSAE-AMS-A-8625は すでにMILスペックから切り替わっており、その時点でMILスペックはCANCELされている。このAMSが現在ACTIVEであると一方的に回答してきた。
そこで、改めてDODに再確認をしたところ以下のようなQ&Aを得た。
Q1:どちらを契約上使用すれば良いか?
A1:双方ともACTIVEなので、どちらも正式に使用できる。
Q2:DODはこのAMSを採用したか?
A2:現在まで採用していない。
Q3:内容を比較するとまったく同一に見える。SAEによれば、このAMSはMILスペックのCANCELを
見越して当座の措置としてコピー版を発行したとのことであるが。
A3:このAMS番号はMILスペックのそれと同一番号である。このMILスペックは現在ACTIVEである。
SAE委員会は逐語的な変換をして このAMSを発行したようであるが、不注意にもDODとSAEは
この件について調整を取っていなかった。その結果、現在のような混乱をまねている。
そこで、近々SAEと話し合いをしたうえで、解決したいと考えている。
【現状】
本日現状を改めて調査したところMIL-A-8625は現在もACTIVEであり、またDODはAMS-A-8625を採用していない。話し合いをしたのかまたは調整ができていないのかは不明である。よって防衛装備品としてはAMS-A-8625は使用できない。
【事例2】MIL-STD-2154とSAE-AMS-STD-2154
DCメール2004年4月15日号(No.121)ではMIL-STD-2154とAMS-STD-2154における移行問題を掘り下げた。そこには従来からあるMIL担当者とAMS担当者の間の相違が見えてきた。AMS担当者に言わせるならば、未だにMIL-STD-2154 が廃止処分とならないばかりか、DODがAMS-STD-2154を採用しないことにいらだちがあったようだ。
AMS担当者によると、DODは過去数年にわたって1600件もの大量のMILスペックやスタンダードをSAEに移行してきた。しかしながらDODはこれらのMILスペックやスタンダードを廃止することが幾分遅れている。その結果たまにMILとSAEの双方の文書が生きているケースがある。DODは移行元文書を残す決定を下し、SAEに対し移行先文書の廃止を要請することがある。SAEとDODはともに全力でこれらの問題の解決に当たらなければならない。
そこで同じ質問をDODのMIL-STD-2154担当者に聞くと、現在DODは、数ヵ月以内にAMS-STD-2154の採用とMIL-STD-2154の廃止をするためにDODの各部門との調整中である。 この調整が合意に至るならばこの通りとなろう。それまでの間はMIL-STD-2154が正式文書として使用されるとのことであった。
そこで推測できることは、上記のAMS担当者からの回答による「遅れ」がこの「調整」のために起こっていること、そしてこの「調整」がなされない限りは、AMS-STD-2154は「生きて」いても認定されず、場合によっては、差し戻されてしまう。スペックやスタンダードを移行するということは、現実問題として非常に難しい意味を持つことが、これらの内容から伝わってきた。
【現状】
この回答のとおりそれから半年後の2004年11月15日にDODはMIL-STD-2154をキャンセルし、SAE- AMS-STD-2154を正式に採用した。なお、その後DODはASTM-E2375をも正式に採用し、最新版AmendmentではSAE-AMS-STD-2154とどちらかを使用することができるとしている。われわれのアクションがDODやSAEの後押しをする結果となった。
【事例3】MIL-C-7438とSAE-AMS-C-7438
現在MIL-C-7438は”Active”である。一方、AMS-C-7438は、MILスペックをSAEに完全に置き換えた形になっており、キャンセルされないままAMSの説明によるとMILスペックはSAEに置き換わったとのことである。しかし上記のとおり、MILスペックは引き続き有効となっている。
この問題をDODとSAEの双方に調査をするとDODはAMS-C-7438を採用していないことがわかった。しかし一方、AMS-C-7438の表紙には”The initial release of this document is intended toreplace MIL-C-7438G,Amendment 1.”との 記載がある。 これはAMS-C-7438はMIL-C-7438を代替する意向で事を進めているが、現在においてもまだDODとの間で代替手続きが完了していないことを表明している。DODはMIL-C-7438をActiveとしAMS-C-7438の採用を認めていないと読むことができる。しかしSAEの意向は代替は継続しているためにActiveとしてすでにReaffirmedされているとしている。そこで双方がActiveであるにせよ、DODはAMS-C-7438を未採用である以上、装備品の契約上ではMIL-C-7438が正規スペックとなり、AMS-C-7438は使えない。
【現状】
DODとSAEの担当者からは、未だDODとSAEの打合せが行なわれていないため、今後その調整を行う必要があるが時間がかかるとの回答を得た。DODからのアクションが取られるようなので、何らかの解決策が得られるものと思われるが非常に時間がかかりそうで、そんなことでいいのかという気持ちである。国防予算減少で人手がいないのか、またSAEも何故DODに任せっぱなしなのかわからない。以前述べたように、大量のスペック移行問題は複雑な影を落としている。1994年に始まったスペック改革は米国政府の予算縮小もあって「やりすぎた感がある」というDOD担当者の声がある。2001年に起きた911問題以降DODは一度移行したスペックをもとに戻している。スペックの民間移行は装備品のコスト削減や納期短縮といった問題にはプラスとなったが国防装備に叶う品質という点では不安が残るというのである。確かに民間品の認定品問題が揺れる中DODはMILスペック品の認定品強化策を打ち出した。こういった動向は今後とも続くのではないかと弊社では見ている。
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