DataCraft

Topics

次世代カタログ・データ品質管理

2010.2.28

NATOとECCMA
世界の56カ国が運用するNATO装備品データベース(NCS)は今や1600万件を超えるNSN(National Stock Number)を有しており、このNSNには3300万件もの民間製品の仕様とその技術特性データが組み込まれている。NCSの運用管理を行うNATO,AC/135委員会ではこれら膨大且つ多国籍で多種多様な装備品データを統一管理している。データの追加・削除・廃棄などの登録業務は複雑多岐を極め、それが結果としてリアルタイムを要求するNATO兵站業務に影響することになりかねない。そこでDLISの協力のもと米国電子商取引コード管理団体であるECCMAと協同することで次世代の装備品データ品質管理の国際標準化を目論み、世界最大の品目データベース構築を邁進している。わが国ではこういった国際標準化の動きをその端々で察知しているが、総体的にNATO装備品データベースの動向を伝えるものはない。そこで今回はNATOとECCMAと題してその新しい標準化戦略について紹介する。なおこの国際化の波は緩やかではあるが確実にわが国に押し寄せているのである。【DCメール】 2010年3月1日 No.264

NATOの国際標準化戦略
 
 FLIS(Federal Logistics Information Ssytem)やNCS(National Codification System)のようなロジスティックス・データベースには限りなく多くの民間工業製品(ここでは装備品という)のデータが組み込まれている。ユーザはこれらの装備品の技術特性データ(Technical Characteristics Data)を検索して物品を迅速に取得しなければならないからである。それもNATOのように数10カ国にわたるような多国語からなりその仕様も構成も異なる言語ということになるととてつもなく膨大な時間とコストがかかる。NCSを統括管理するNATO,AC/135委員会ではこのような複雑多岐にわたる装備品の技術特性データを統一し標準化することを10年以上もまえから模索してきたが、2001年に米国の電子商取引専門団体であるECCMA(Electronic Commerce Code Management Association)と協力することで大きく前進することになった。その答えがeOTD(ECCMA Open Technical Dictionary)である。
 
 
eOTDとISO標準化推進
 NSNには数多くのデータ・エレメントが組み込まれている。その中でもユーザが最も利用する頻度の高い物品番号(Reference Number) や技術特性や企業名などは全て民間データである。NSNを構成するこういった民間データ、特に技術特性データはFLISやNCSをより効果的に且つ検索性を豊かにさせるためのデータ・エレメントである。
 近年インターネットの隆盛により電子商取引が拡大され電子部品を筆頭にあらゆる工業製品の電子データ化が推進されてきた。しかし一方ではこれら電子化されたデータは企業単位で行われてきたものであり、また国単位のものである。そしてそこには企業同士はもちろん国同士におけるデータ交換作業は多くの場合その自動化が困難であり、多くの労苦とコスト要因が付きまとってきたといわれる。ことさらFLISやNCSの場合は1600万件以上のNSNのひとつひとつの装備品データを組み込む作業は膨大なコストが見込まれてきた。そこでNATOでは主にDODが中心となって古くからこの問題を論議し研究を重ねてきたが、ここにECCMAとの協力によりカタロギング作業における共通技術辞書であるeOTDの開発に成功したのである。
 このeOTDはDODの傘下にあるDLIS(Defense Logistic Information Sysytem)とECCMAの間で誕生したいわゆる異なった工業技術データ・フォーマット同士の交換や転換を可能にするアーキテクトをもち、膨大なFLISやNCSを維持管理するためのコストを大幅に削減する初めての官民が一体化した電子データ変換を可能にするプロジェクトであった。このECCMAとの共同歩調により米国やNATOではeOTDの国際標準化を目論み推進することで、ようやく2008年にISO22745として誕生させることに成功した。また同時に従来からの品質管理規準であるISO9000に準えて、これらデータの品質管理基準として新しくISO8000を誕生させることになるのである。
ーISO22745 産業オートメーションシステム及びその統合-オープンテクニカルディクショナリ及びそのマスタデータへの適用
ーISO8000 マスタデータ:特性データの交換:構文,意味符号化及びデータ仕様への適合
 
 
国際標準の策定プロセス
 一般的に国際標準が制定されるまでには6段階を踏まなければならず、 また36ヶ月以内に最終案がまとめられなければならないとされている。 ISOにおける新標準策定の動きは技術委員会(TC)におけるECC MAを旗頭にDLISあるいはAC/135では各国のメンバーと審議を重ねまたあるいは説得を重ねることで賛成を取り付けた。そしてそこにはNSNを核とした世界の装備品DBの構築だけではなく、国際連合との協調による国連物資コード(UNSPSC)の取り込みをはじめあらゆる世界の商品物品、装備品DBの構築を視野に入れた戦略構想が見え隠れする。
 ①新作業項目の提案ー各国加盟機関、専門委員会や分科委員会などが新たな規格の策定を提案。
 ②作業原案の作成ー提案の承認後、作業グループにおいて作業原案の策定に当たる専門家が検討作成。
 ③委員会原案の作成ー 総会でのコンセンサスあるいはメンバーの投票にかけて2/3以上の賛成を得た場合に成立。
 ④国際規格原案の照会及び策定ー登録された原案は全てのメンバー国に投票のため回付される。
 ⑤最終国際規格案の策定ー中央事務局が登録された最終原案を全てのメンバー国に投票のため回付する。
 ⑥国際規格の発行となる。
 
 
ところでNSNの価値とは。
 FLISなど兵站情報の最大の目的は、調達が迅速に行なわれることで装備品の欠落時間を短縮できることであるが、本当の価値とはNSNに取り込まれた各種要素データにより、在庫の確認、保存期間の識別、交換・代用可能な供給物品の識別、利用可能な代用品の最大限使用、価格情報の提供により防衛予算の最適化、武器システムのライフ・サイクルを拡張し、設計、製造および修理プロセスのためのサイクル・タイムの改善、 機密情報を保護し、多数の調達業者の登録、重複物品の識別援助などが最適に行なえることである。
 NSNの最も重要で最も遠大なメリットは、装備品の取得要求から保守、そして廃棄に至るまでのライフ・サイクル管理を提供するということにある。NSNを集積したFLISやNCSは兵站情報としてWebFLISやNMCRLを通じて世界的に使用され、NSNはもはや兵站の国際語となったと言われている。今やNSNはトータル・コスト・オブ・オーナーシップ(TCO)の実現を具体化し、装備品の初期コストに加えてランニング・コストを含めた総合コストの削減を可能する戦略的な概念として今後益々進化を遂げるものとして期待されている。米国に端を発した装備品取得に纏わるNSNの総合コスト概念はNATO諸国や国連(UN)における物品取得のオプティマム・ツールとして世界最大の利用者を抱えるまでに膨れ上がっているのだという。
 
 
わが国はどうなっているか。
 一方このNATOによる新しい国際標準化政策に対してわが国はその政策の立ち遅れからかカタロギングに特化した規準という見方を変えておらず、ISO8000への研究・対策はまさに始まったばかりであり、またISO22745についてはなんらの対応もとられていないのが現状である。わが国は現在NATOのTIER1(ティア・ワン)取得になるべく研究がなされている。しかし米国もNATOもわが国がTIER1はもちろんのこと、TIER2(ティア・ツー)国になることを望んでいる。わが国が本格的にNSNを取り込むまでには、まだまだ解決しなければならない難題が待ち構えているが、TCOを掲げるわが国防衛装備品行政にとってこれらの新しい国際標準の運用は避けては通れないデファクト・スタンダードとなるであろう。
 ところでわが国とNATOの繋がりはそれほど古くは無い。それまで米国一辺倒であったわが国の外交・防衛政策は、米国の仲立ちもあって2007年にわが国首相として始めて当時の安倍首相がNATOを正式訪問したのが大きな転機であっったといえよう。防衛標準化や兵站の世界では米国は既にNATOとの共有体制を完了させており、わが国も複眼的に政策を見つめる時がきている。世界はすでに装備品市場においてビジネス化しており多国間で一元管理されたものとなりつつある。それは官民による共同歩調および一体化であり、決してわが国のように複数の管理監督省庁(例えば、防衛、外務、経産、国交省)の狭間で埋没しているものとは大きく異なる。その上わが国の装備品登録を同盟諸国と帯同して行なえないことがわが国装備業界が孤立し育たない遠因ともなっていることも大問題である。このことはわが国の秀逸な資材や部品、需品などの装備品の世界市場でのビジネス機会損失を意味し、逆に高額で品質や納期に問題の多い他国品を購入しなければならない 背景ともなっている。わが国は装備品というと単純にエンドアイテムとしての武器類を連想するが、FLISやNCSの世界では1600万種類あるNSNの、またその下にある3300万種類の製品のほんの一部でしかない。大多数は素材であり、電子部品であり、機構部品でありそしてまた需品なのである。
 
 
急速に拡大するNATO装備品データベース
 
 今NATO装備品システム(NCS)は世界最大の装備品データベースとして世界38カ国、3300万種類のメーカー装備品が収録されている。NATOによればこれはまちがいなく、世界最大の製品データベースであるという。そのうえ国連が加盟し、また未加盟国を巻き込み、また装備品以外の製品分野もを取り込む壮大な計画があるという。そのためには参加国はNATOの定めるTIER1,TIER2の整備能力を構築しなければならない。わが国はこの分野において10年は遅れているといわれるが、その最大の理由は「政治的な判断」が伴うからであるとされている。しかしながら装備品は膨大且つ細かい。まさに鉛筆からミサイルまでを識別化した装備品体系である。それを一言で武器輸出に喩えるような時代感覚ではとてもなし得ない。TIER2への道は長く、険しいが避けては通れない。
 
 
【お願い】
DCメールの性質上、出来る限り日本語にしてお伝えしているが、適訳であるとは限らない。また、紙面の都合上全ての原文を引用できない場合がある。なおDCメール・サービスは参照情報源としてだけ使用されるものであり、完全性や正確さを保証したり主張したりするものではない。また当メールに記載された内容を無断で引用または転載することは禁じられている。