【PRFスペックは成果主義のMILスペックである】
2017.10.21
―ここが違うPRFスペックー
MIL-PRF-XXXXという表記形式のMILスペックに対する質問が多い。将来、最も運用されるこのPRFスペックを、今一度理解して、その目的を知り、運用に取り組んでいただきたい。(DCメールではPDFスペックを成果主義のスペックとして訳語を統一する。) しかし、ユーザは訳語に捕らわれずにPRFスペックの本質を見極め、理解されたい。ここでは過去に特集したPRFスペックの中から抜粋して、改めて解説する( DCメール 2017年10月15日 No.447)
■ここが違うPRFスペック
米国防総省(DOD)の標準化政策のなかで最も重要なスペック改革にPRFスペックの登用がある。PRFとはPerformance(パフォーマンス)の略である。ここ最近のMILスペックの変遷を見ると、いままでのMILスペックはこのPRFスペックに徐々に代替されているのがよくわかる。そして、将来は最も運用されるMILスペックと言われる。何故だろうか。
1994年DODはMILスペックの全面的な改革をおこなった。改革の大部分は取得・調達におけるパフォーマンス(成果)の要求にあった。そこで主な取得契約の優先度はPRFスペックとなった。一般にスペックとはユーザの要求をメーカに伝えるものである。言い換えればスペックは運用すべき要求をメーカに技術的な言語に置き換えておこなわれるものである。
スペックには①許容できる製品とは何か。②製品の許容をどう決定するかが記載されなければならない。しかしスペックを使っていかに製品を作るかをメーカに伝えるときに問題が起こる。従来からのMILスペックは半ば強制的に使われてきたことで、メーカの革新的な能力を抑え、改良され、よりコストの安い、より確かな製品を得る可能性を制限してきた。
またメーカがどうやって製品を作るかが完全にわかっていないとき、また知識が十分に伝わっていないとき、あるいは本当に改良品が必要とされるときにも「やりかた」(ハウツー)までもスペックに記述してしまったことがMILスペックの特長であり、また後に重大な害をもたらしたのである。
実は、PRFスペックの必要性はそこにあるのである。
PRFスペックはそのやりかた(ハウツー)や詳細記述を不要とし、メーカの裁量を持って要求に合う方法を見つけてもらうものなのである。そこでPRFスペックでは、その成果への要求を効果的に記述するためにユーザ・ニーズと技術特性を網羅したものである、と言えよう。
そして、仕様書への要求は精密な点を追及するより、許容の範囲や臨界値(Threshold)を要求することでユーザの柔軟性を反映させている。PRFスペックは必要な結果に関する要求事項を述べ、準拠していることの証として、評価基準を提示しているが、結果を得るための方法論は決して述べてはいないのである。
例として従来からのMILスペックは次のような不必要な要求があった。例えば、
「補強は耐食鋼ワイヤから成るものとする。16Z未満のホースは、単一層の組み紐があるものとし、16Zおよびそれ以上のホースは 2層の組み紐があるものとする。ワイヤは、ここで指定される要求に応じられる強度を保つために、チューブの上に張られるものとする。」
これらの記述は、組み紐の鋼線と層は、ホースを補強するための最良な方法でないかもしれない。しかし、機能的な要求とは、ホースが指定された量の圧力に耐えることなのである。
「布は毛羽立った綿から作られて、縦糸と充満した中身のために一本糸で紡ぎられるものとする。織り方は5ハーネス・サテンであるものとする。充満した側は装丁され、表(おもて)として確認されるものとする。」
この記述も布を作る方法を製造者に教えており、どのような布か、またその品質について述べてはいない。
そこでPRFスペックとしてつぎのような記述を紹介しよう。
「MIL-S-901で指定された衝撃試験にかけられても, 回路遮断機は作動しないものとする.」
「biocular接眼レンズは最大高度1万フィートにおいて作動するものとする.」
「探知器はほこり、よごれ、指紋、湿気など目視検査で検出されるような異物を含まないものとする」
「タンクは最大30MPHの速度でアバディーン実験場の地形輪郭コースを横断するものとする。」
「靴は標準男性のサイズのものであるとする。9, 9-1/2, 10, 10-1/2, 11,11-1/2, 12, 12-1/2, 13」
「装置はマイナス46℃からプラス71°Cまでに及ぶ温度において損傷無く耐えるものとする。」
このようにPRFスペックはユーザの要求事項について、はっきりと表現しなければならない。
その意味で技術的な要求は、運用上の要求を徹底的に理解したうえで記述されなければならない。すなわち、要求が最低要求(Minimum)か、また臨界要求(Threshold)か。また、それぞれの臨界とは何か。またどのような拘束が適用されるか。運用を管理し自然環境を利用し、また他のシステムと融合する全ての拘束が記述されているのである。
そのうえ成果に対する要求には、次のような特質がなければならない。
① 要求は質的というよりは、むしろ量的でなければならない。
それはPRFスペックが、提案や入札を行う人々およびそれを評価する人々に、要求が何であるかを正確にわからせないといけない。量的なデータに基づかない要求は、解釈と誤解を与えることになる。成果パラメタは明確に詳しく説明されていなければ評価して契約後に成果を実践するのが非常に難しくなるからでもある。
そこで、PRFスペックの記載例としては、例えば、「トラクタの全長は150インチ以下であるものとする。全幅は52インチを超えないものとする。全高は85インチ以下であるものとする」等など。
②要求事項は検証可能でなければならない。
PRFスペックは製品が必要に応じて働くかどうか分析、試験また実演で決定することができなければならない。また検証可能な要求はメーカを助ける。
それは、例えば装置のでこぼこについて確かめる場合、メーカにはこぼこが何を意味し、製品の要求を満たすかどうかというよりは、メーカの良い考えが浮かぶかもしれないからである。
それは、例えば旋盤主軸はロックウェル「C」スケールにおいて60以下または65以上の硬度があるものではいけないとするなどである。.
③成果への要求は異なった設計部品で互換性を許容することができるように詳細に記述しなければならない。
ここで問題なのは、PRFスペックを用いるときの他のスペックとの領域を慎重にしなければならないということである。例えばPRFスペックは適切なレベルで必要な他の要求を列挙しなければならないが,その必要性を超えた結果を課してはいけない。
事例として、 例えば、制御表示装置があるType Aユーティリティ・トラック(L社のインストール・キット880512)付きの地位方位決定システムAN/USQ-70の設置用に作成されているものとする。また装置にアクセスする24ボルトのDC電力ケーブルの設置のために作られているものとする。PADSシステムの大きさはおよそ26x31x20インチで、重さは317ポンドであるなど等である.
④要求は材料やプロセスから独立していなければならない。またPRFスペックを変えないで材料や過程を変えることが可能でなければならない。
これは、 例えば事例として、すべての草刈り機はメーカによる民間規格の錆照査処理をもって扱われるものとし、MIL-SPEC-xxxxに従って検査されるものではない、などである。
このように、PRFスペックは製品、使用目的、役務の環境状態、保守能力、必要な相互関係および互換性などの特性について必要とされる成果を完全に定義しなければならない。メーカは自由に、どんな方法でも要求を満たすことができる。メーカは提供する製品がスペックに記載されている成果基準を満たしていれば、すぐに提供することができる。ここで重要なことはメーカとユーザの双方がそれらの評価基準を満たすかどうか決定することができるということである。
ところで、PRFスペックを記述する際に危険なことは不必要な情報を織り込むことである。何を含むのかを選ぶのと何を除いたらよいのかを選ぶことと同じくらい重要である。ユーザは取得される製品に対して、すべての要求を精査し、また価値の無い要求を排除しなければならない。データ要求、検証方法、および見落としは最小の不可欠の必要性であることを反映しなければならない。
そこで、以上をまとめると、スペックの各条項において、PRFスペックと従来からのMILスペック両者の記述の違いを明記したものである。
1.PRFスペックはどうしたらいいかではなく、何が必要であるかを記載している。
特定の材料や過程、部品などメーカを制限してはいけないが、品質や信頼または安全に関与する場合は特定材料や過程、部品などの使用を禁止することができる。またできるだけ多くの成果要求を含まなければならないが、詳細要求と対立してはならない。一方、従来のMILスペックは方法も含めた特定の要求をしている。
2.PRFスペックは品目やシステムは運用の容量や機能に関してどうしたらいいかを記述する。
従来のMILスペックが成果を達成する方法を述べるのに対して、PRFは、より高いまたはより低い成果の特性が目標や最善の努力として述べられるのではなく要求として述べられる。
3.PRFスペックは方法論や特定な設計要求は適用しない。
MILスペックは方法論や特定な設計要求が含まれ、場合によっては正確な部品と部材を指定している。例えばハウジングの詳細設計を示して特定の図面に従って要求を述べるごとくである。
4.PRFスペックは関連性や共同運用性、作動環境,または人的因子に必要な範囲だけの特性の記述がなされる。
MILスペックは品目や部品についての詳細な重量、サイズ、寸法、品目など特定な設計詳細は、時にして関連スペックなどにも必要なものを超越することがある。適用可能なものとしては、全重量や外形寸法制限、品目の設計や製造に適用される物理的な要求は独自的で、品目の適切な製造に絶対に必要かつ使用されなければならない。例えば、航空機部品の必要性は、米国連邦航空局の設計や生産要求を満たすこと等である。
5.PRFスペックは特定の素材をメーカに求める。
例えば、「耐蝕性」のようにその特性記述が必要とされる。品目設計において素材使用を統制する以外は、詳細な要求は記述しない。そのような要求は品目の有効利用に対して独自的で批判的であり、最小限に抑えなければならない。例えば新設計部品に対して、既存在庫品を強制的にあてがうことなどがある。MILスペックは通常スペックに従って特定の材料を必要とする。
6.PRFスペックは過程や諸手続についてはあったとしても要求はすくない。
MILスペックは結果を遂行するために温度や時間や他の条件などの正確な過程や諸手続をしばしば指定する。例えば焼き戻し、焼きなまし、機械加工、仕上げ加工、溶接、はんだ付けをすることなど。
7.PRFスペックは特定の部品を必要としない。
MILスペックはどのファスナ、電子部品、ケーブル、シート・ストックなどを使用するのかを記述している。
8.PRFスペックは信頼性を量的な言語で記述する。
また要求が満たされなければならない状態を定義する。また必要最低の値を記述する。例えばMTBFやMTBRなど。
9.PRFスペックは保守の要求を量的に記述する。
例えば平均・最大の補給時間や平均・最大の修復時間、MTBM、保守勤務・操業時間比率、保守処置職員と熟練度の数、操業時間当りの保守費など等である。さらに使用される試験設備の確認や品目と試験設備間の互換性の指定もおこなう。
10.PRFスペックは湿度、温度、ショック、振動などの要求を確立する。また失敗の証拠や機械的な損傷を入手する要求を樹立する。
以上がPRFスペックの特長であるが、必ずしもすべてのPRFが同一ではない。しかし、明らかにMILスペックとの違いは明白であり、またMILスペックに多く使われるshall(ものとする)も、PRFスペックでは、むしろmay(ことができる)に置き換えられている点などにも注意して、読みこなすことが重要である。
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