MIL-HDBK-1797が廃止され、MIL-STD-1797Aに移行した理由調査
2007.2.5
【調査依頼内容】
MIL-HDBK-1797が廃止され、MIL-STD-1797Aに移行した理由を教えてほしい。
【調査回答】
一般的にいってMILハンドブックはあくまでも手引き(Guidance)であり、そこに引用される要求事項は実際の契約行為には拘束されない(Not Binding)。しかしMIL規格(Standard)はそこに引用される要求事項は契約に拘束されなければならない。
1994年に施行されたMILスペック改革(いわゆる取得改革)は従来からの官主導による設計要求や製造要求を削減し、逆に防衛など民間産業界からの革新的な設計思想を大きく取り込もうとすることであった。
そこでDODはMIL-STD-1797Aを含む多くのMIL規格の表紙部分のみを変更してMILハンドブックとした。また従来からの規格としての要求(Requirement)を取りやめ、単なる提案(Suggestion)とした。
しかしながら、それから10年以上が経過した現在、その現実(Realization)はこれらのMIL規格が再び復活してしまったということである。このMIL-STD-1797Aもその一例である。それはなぜだろうか。
それはMIL-STD-1797Aに取って代わるような民間スペックが新しく制定されることが無かったからである。すなわち民間規格団体では現在運用される軍用機向けに要求される独特な使命や任務、形態管理などにかなう民間規格は既存のものはもちろん、新しく制定されることはできないということである。
そのためにDODはMIL-STD-1797Aを自ら復活させ、この軍用機における独特な飛行特性を維持しなければならないわけである。また現在DODは当規格の改版ドラフトを起案中であり本年中(2005)には公式サイであるトASSIST(あるいはassitdocs.com)に公表する予定としている。
(解説)MILスペック復活の現実
最近の傾向としてこのように一度民間スペックや民間規格に移行(Superseding)しておきながら、ふたたびMILスペックやMIL規格に戻す復活(Reinstatement)ケースが多いようである。また、DODとSAEのような民間規格団体の間でやりとりをしていて、どちらが主体的に管理していくかが「揺れている」ケースも少なくない。この度の回答はそのようなDODが抱える現実問題を克明に表記したものとして大変貴重である。
一時MILスペック改革が断行されたときは、いずれMILスペックは無くなるのではないかというような憶測も流れたが、現実問題としてこのような基本性能を要求するMILスペックやMIL規格は民間スペックや民間規格には取って代われなく、結果的に元のMILスペックやMIL規格を復活(Reinstatement)させなければならないという現実が改めて証明されたわけである。
またMIL-STD-1797のような軍用機の飛行特性に関わる基本性能規格だけではなく、塗装や溶接に関するMILスペックについてもその独特な要求ゆえに移管した民間規格団体との折衝や民間スペックや規格の要求内容についての問題点が多数浮上している。
そこで日本のMIlスペック・ユーザもこのような現実をよく理解したうえでMILスペックを解釈し適用することが大変重要になっている。従来から米国政府の方針に左右される感のあるMILスペック準拠であるが、このように米国政府自体がMILスペックの「独特な」環境を民間に移管することの難しさに直面していることを十分に理解しておくことが大切である。また、そのうえでユーザは個々の問題に取り組む姿勢が求められているのである。
注:当調査依頼内容あるいはその回答内容はかならずしも最新ではありません。