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NATOカタログ制度(NCS)

NATOカタログ制度(NCS)

NATOカタログ制度(NCS)について

日本は防衛装備品の海外移転を積極的に進めていますが、これら装備品に纏わる技術情報等流出防止策や、知財保護戦略の検討も合わせて行うことが、さらに必要であることが、このほどNATOが開催したカタログ制度の分科会に出席した筆者の考えです。

そのためには、今や世界標準となったNATOカタログ制度(以下、NCS)への取り組みを、より一層強化することが喫緊の課題です。そこでここではNCSを紹介するとともに、NCSの根幹をなすNATO補給番号(以下、NSN)やT1(ティアワン)やT2(ティアツー)といった導入レベルについても、できるだけやさしく記載することにします。

防衛装備品の海外移転と知財保護

今や装備品制度の世界標準となったNCSとは何でしょうか。現在、米英仏などNATO29加盟国とそのTier2(以下、T2)と呼ばれる豪韓を含めた非NATO諸国の18か国、合わせて47か国はNCS(NATOCodification System)と呼ばれる防衛装備品データベースを共有しています。また、日本を含めたTier1 (以下、T1)国16カ国はNCSの利用はするが、共有はしない、いわゆる片務的な関わり方となっています。

これらNATOとT2(ティアツー)合わせた世界の主要47か国は、自国の装備システムの即応性維持のために可能な限りリアルタイムで、保証された装備品情報の運用を行っているのです。ひとつでも不良情報があればそれが命取りになりかねないからです。またコアリション(同盟)体制の下、各国装備品の配備範囲はグローバル・サプライチェーンへと急速に拡大していることも事実です。

こういった世界のロジスティクス環境の変化に伴い、かねてから米国を中心として開発が重ねられてきたNCSは、NATO諸国はもとより非NATO国をも含めたグローバルな装備品情報データベース化が進められてきました。その結果、現在では世界中から1800万件以上もの膨大で、かつ詳細な装備品情報の共通化に成功し、また2700万以上のユーザもの各国の政府機関や民間企業に対してNATO装備品情報サービス(NMCRL)を提供しているのです。

日本は2011 年にT1(ティアワン)加盟を果たしましたが、主に外国からの輸入品(供与品)を管理するために利用しており、現在においても国産装備品については日本独自の管理体制を敷いています。しかし、装備移転という対外的に新たな政策課題を展開するためには、いくつかの解決しなければならない問題が明らかになってきたのです。

例えば、日本政府と民間企業が装備品の国際共同開発を検討する場合、相手国がNATOまたはT2国である場合、すべての装備品をNSN登録(後述)しなければなりません。また、そのために日本の民間企業は必要な技術情報(図面、試験データ、仕様書など)をSTANAG(NATO規格)に基づいて提供することが余儀なくされています。それはT1国は自らNSN登録することができないため、移転相手国が代行してすべての登録、維持、管理をしているからです。そのために相手国から、装備品登録に必要な技術情報の提供が求められています。もちろん、そこには双方の合意が前提ですが、知財保護の観点からきちんとした対応が求められなければならないことがわかってきました。

次に、装備品に付与される統一番号(これをNSNという)の登録はT1国ではできないことから、移転相手国に提供する技術情報や資料が転用される可能性があり、ここに情報流失の恐れがあるということもわかってきました。そして、さらなる重要な問題は、知財保護をしなければならない日本のメーカーが、このことを記したSTANAG、いわゆるNATO規格について十分に理解していない点が挙げられます。即ち、全く知らないままに公表され、その内容は技術情報の過剰な公開あるいは誤認情報の可能性もあるということがわかってきたからです。

かねてより海外規格の調査・研究を進めてきた弊社ではこれら技術情報等の流出防止策を次のとおり認めました。
(1) 日本は早期にNCSのT2国となり、NATO加盟国と同じ情報発信の権限を持つこと。
(2) 日本は早期に組織を強化し、日本装備品のNSN運用を促進させる必要があること。
(3) 日本は移転相手国との2 国間協議において、これら情報流出の防止協定を締結すること。

豪州や韓国では、T2国としてNATO国と同等に自国品の登録、他国情報の入手、そしてNATO理事会での発言権などがありますが、日本が位置するT1国は登録された他国の装備品情報を入手することはできるものの、自国装備品の登録は他国がおこなう現状にあります。既にアジア近隣諸国では豪州は1998 年、韓国は2005 年にT1国からT2国に昇格を果たしており、その躍進は既に読者の知るところでしょう。

NSN無くして装備品の共有化は成しえない

NCSは米国カタログ制度(FCS)が母体です。NSNはこの2つの制度に共通した装備品識別の最小単位です。米国政府は1953年、NATOを啓蒙し、カタログ制度の導入を奨励しました。そして現在では、世界各国への啓蒙活動や共通システムの設置をすてNATOに任せるようにしています。その結果、今やNATO諸国のみならずアジア、アフリカ、南米諸国など世界の64カ国で採用されるようになりました。日本はこの制度に加盟はしましたが、NSN登録には至っておらず、従って他国との装備品システムの共有化は実現していません。しかし装備移転のみならず世界の平和維持、災害救助活動等には必須の事案であるだけに、この世界標準のNATO装備品情報システムの本格的導入を早期に実現しなけれななりません。

NSNは必ず13桁の番号が付与され、物品名、識別データ、管理コードや性能データなど多数のロジスティクス情報が組み込まれています。NSNの数は米国だけで700万件、NATO全体では1800万件を越す膨大な数となっています。このNSNの最大の特徴はなんと言ってもこれらNATO国や非NATO国の民間企業により生産される装備品、例えば航空機部品から需品に至るまでの互換品や代替品情報が埋め込まれている点です。その結果、NCSに登録されている民間製品の数はこのNSNの数の数倍に昇り、3600万件を越すと言われているのです。

NSNの事例として、例えばある米国製車両のガスケットの代替品がドイツのダイムラー社製や英国のBAE社製となって掲載されています。同一のNSNとは、もちろん材質や形状、寸法はすべて同一でなければなりません。これにより米国製のガスケットが枯渇し、納期に間に合わない場合、ダイムラー社やBAE社のガスケットが取得されるわけです。このようにロジスティクスのグローバル化はもはやすべての装備品を共通化し、共有して即応性や廉価性を追求しているのです。

このようにNATOが提供するNMCRLなどロジスティクス情報の最大の目的は、取得がいつでも、どこでも迅速に行なわれることで、装備品の欠落時間を短縮できることですが、本当の価値とはNSNに取り込まれた各種要素データにより、在庫の確認、保存期間の識別、交換・代用可能な供給物品の識別、利用可能な代用品の最大限使用および個別に取得した価格や納期情報の提供により取得予算の最適化、運用システムのライフ・サイクルを拡張し、設計、製造および修理プロセスのためのサイクル・タイムの適正化、 機密情報を保護し、多数の調達業者の登録、重複物品の識別援助などが最適に行なえることなのです。

言い換えますと、NSNの最も重要で最も遠大なメリットは、取得要求から保守、そして廃棄に至るまでのライフ・サイクル管理を提供し、即応性(Readiness)の改善を成し遂げることにあるのです。 NSNは米国政府のFLISやNATO のNMCRLを通じて世界的に使用され、NSNはもはやロジスティクスの国際語と言われるようになりました。

Tier2(T2)昇格は装備移転の攻守の要(かなめ)である

さて装備移転を掲げる日本防衛装備品行政にとってNSNの運用は避けては通れないデファクト・スタンダードです。そのためには、日本はできるだけ早期に現在のT1からT2と呼ばれるNATO諸国と同様な、各国と共通した概念と共有する装備品を持つレベルに昇格しなければなりません。それがまさしく装備移転事案を具体化し、各国との共同研究や開発、しいては装備品サプライチェーンの共同運用に寄与するものと断言できるからです。また、国連(UN)における平和維持活動や災害救助活動等において、他国の装備品と共有化できることは、さらなる国際貢献に繋がるものとして大きく期待されるのです。また、そのうえ上記で取り上げたような、日本独自の技術情報など知的財産を自ら守る体制を敷くことができるのです。T2国になるということは、世界各国と共通化した装備品システムのもと、コスト削減、品質向上、まがい品の廃除、他国とのシステム共有と部品の共通化など、多くのメリットがあります。

装備品というと、安全保障分野における物品に限定されるような誤解がありますが、NCSには多くの民生品や需品が含まれています。近年、海外における危機管理や災害救援に関し、日本とNATOとの間ではHA/DR(人道支援・災害救援)に関する共同研究が発足しており、日本とNATOの双方が人道支援・災害救援分野における経験と教訓を共有するとともに,同分野での将来の協力の可能性を検討するものです。そこでは、将来的にはこういったHA/DR活動を通して、日本が世界の平和維持に貢献し、積極的に参加することが求められますが、海外事案にとどまらずに国内外を問わずして、被災したひとびとを救済するための装備品ツールとして、NCSを通じて発展させてほしいものだと改めて念願するものです。


2016年1月吉日

NATO カタログ制度アドバイザー
データクラフト株式会社
代表取締役 服部孝男
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