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アメリカ国防標準化政策の現状と問題点ー第1回

2007.2.7

昨年に引き続きまして、日本防衛装備協会による会員誌「JADI」の2006年12月号と2007年1月号に本稿が掲載されましたので、今回から4回に分けて、その内容を紹介させていただきます。なお、当メールマガジンの性格上、掲載される表や図につきましては省略いたしますが、ご希望の方は別途ご要望ください。

アメリカ国防標準化政策の現状と問題点-第1回
本稿の草案を整理しているさなかに、北朝鮮によるミサイル発射の激震が走った。本稿でも紹介するがミサイル・システムのような先端技術による正面装備の論争はもちろん大切である。しかし個人的には「もっとも効果的な後方支援策が戦いの雌雄を決する」として、1952年には自国の調達目録制度(FCS:Federal Cataloging System)を擁立させ、常に後方支援体制の維持・強化を図ってきたアメリカに対しては畏敬の念に駆られることを禁じえない。
アメリカはミサイルもひとつの不良部品のためにクズ同然となり、勇壮な戦車もひとつの電子部品の補給が遅れることで多数の兵士が危険にさらされることを十分に知り尽くしている。アメリカ国防総省(DOD:Department Of Defense)は国防後方支援局(DLA:Defense Logistic Agency)という膨大な後方支援組織を保持し、如何に効率的な軍事物資の調達・補給を可能にするかをモットーに、いついかなる場合においても決して正面装備品や前線基地を疎かにしてはいないからである。
今年のアメリカ国防標準化政策総会
今年のアメリカ国防標準化政策(DSP:Defense Standardization Program)に関する総会はワシントンDCのアーリントン地区にあるウェスティン・ホテルにおいて5月23日から国防総省標準化政策本部(DSPO:Defense Standardization Program Office)の主催により始まった。このDSPOはDLAの傘下のもとで「効率的な軍事システムの構築と軍事物資の調達を可能にする」ための標準化業務や後方支援システムの策定を主な業務としている。
今年の総会出席者は二百名ほどで、当然ながらDOD諸機関の標準化関係者が大半を占めていたが、民間からも契約業者などが多数参加していた。日本からは昨年同様民間人である私一人である。なお今年は韓国の軍事大学(日本の防衛大学にあたる)の教授が参加しており、幹部候補生たちの教材として利用するとのことである。初日は総会の責任者であるDLA標準化部長と各軍の標準化部長によるパネル・ディスカッションで幕が開き、DODの標準化業務や後方支援システムの実態と今後の方向付けについての報告と議論が展開された。
アメリカ国防標準化業務の実態
DODの標準化業務もご他聞にもれず資金不足で(計画が)予定通りにいかないことの不満が各パネラーから噴出していた。主賓として国防長官の技術・標準化担当補佐官も出席していたが、イラクなど海外派兵や技術開発等で経済的に大きなツケを背負っており、標準化予算の削減を余儀なくされていることが問題の源となっている。
日本における米軍再編に関してアメリカ政府から高額な再編資金提供の要求があったことがマスコミなどで報道されたが、さすがのアメリカも資金不足に陥っていることの苛立ちがあり、お膝もとであるDOD内部においても予算の削減を余儀なくされている。
なかでも標準化政策を含めた後方支援業務はアメリカにおいても「地味な活動」であるだけに予算が削減されやすく、今後の活動を推進するためにも政府上層部への働きかけやあらたな資金調達が求められている。まずはどのような問題がパネラーによって報告されるのか順を追って紹介しよう。
パネル・ディスカッション1ー統合化されたDOD標準化政策
パネル・ディスカッション1では統合化された標準化政策の事例として、戦略シェルタやコンテナ輸送、電源装置、半導体部品など「メーカから前線基地へ」の一貫した統合後方支援策が推進されていることが報告され、興味あるパネル・ディスカッションとなった。
なお、本稿でははじめにDSPOの役割と統合標準化委員会(JSB:Joint Standardization Board)の創設を紹介するが、JSBの各ワーキング・グループによるこれらの事例をできるだけ具体的に紹介したいと思う。そして今、何故これらの事例が統合化を必要としているのかを改めて考える必要があろう。
今年のもっとも重要なポイントに「標準化の統合政策」(JS:Joint Standardization)が挙げられよう。DODの各機関(陸海空軍やDLAなど)のパネラーからJSの実態が事例を挙げて紹介された。従来までこれら各機関は標準化政策において個別政策を採ってきたが、パネル・ディスカッションではこれらの統合政策により多大な効果があったことを力説していた。
本稿ではこれらパネル・ディスカッションで配布された資料をもとにその内容についての概要を紹介する。これら個別の事例は現在のアメリカにおける国防標準化の現状を知るうえで大変貴重な資料と言えよう。
統合標準化委員会(JSB)の設立について
従来まではDODの各機関に独立した標準化委員会があったが、DSPOが中心となって全軍として統合化することでより効果的な標準化政策の立案と運営がなされ、調達仕様書や規格の統合や連携あるいは取得や調達計画など後方支援の合理化などが推進されている。
国防標準化政策(DSP)の目的は「コスト削減と業務効率の改善」であり、パネラーも「我々のビジョンの実現は改善された統合軍や有志連合軍の共同運用性など個々の結果の証拠によって特徴付けられよう。」としている。
              
DSPOの組織は陸海空軍とDLAおよびDOD外部の関連機関を統合する全軍的な組織形態をなしている。そこで従来までは各軍による個別政策により制定されていたMILスペック等標準化文書も現在では統一化されている。DODは新たに統合標準化委員会(JSB:Joint Standardization Board)を設立し、具体的な政策を実行するDSPOを補佐する立場として各部門の専門家から構成されている。またJSBは統合標準化草案として次のようなワーキング・グループを創設し、具体的な事例を挙げてその成果を掲げている。
■ 統合一貫輸送(Intermodal)ワーキング・グループ
■ 戦術シェルタ(Tactical Shelter)統合委員会
■ 国防バッテリー(Battery)技術ワーキング・グループ
■ 国防半導体部品(Microcircuit)計画グループ
■ 統合移動電力(Electric Power)装置
■ 国防ヒューズ(Fuze)・エンジニアリング標準化WG
■ 国防医療(Medical)標準化委員会

そこで次号では、事例としていくつかのワーキング・グループの活動を紹介しよう。