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【ALGS】

2012.7.1

-F-35ロジスティクス統合支援体制ー
先ごろ行なわれたF−35に関する国会審議において、初めてALGS(オートノミック・ロジスティクス・グローバル・サステインメント)についての質問がなされた。これについて政府は、民間企業が行なう在庫管理等を含む全世界的な後方支援体制を指し、わが国の受け止め方については現在検討中であるとした。ALGSとは何か。そこで今回はF−35の運用維持に深く関与するALGSプログラムについて、またPBLとの関わりについてもできるだけわかりやすく解説した。ALGSは極言すれば米国が提唱し、共同各国が同調した近未来型ロジスティクス戦略に他ならない。 (DCメール 2012年7月1日 No.320)

■ALGSとは
そもそもロジスティクスの観点からみればF-35の共同開発、共同運用に合意した9カ国(米国、英国、カナダ、イタリー、デンマーク、トルコ、オーストラリア、ノールウェーおよびオランダ)はいわゆるNATO主要国とそのTier2(ティアツー)加盟国であり、F-35の初期構想はPBLなどの次世代型ロジスティクス政策を可能にするロジスティクス先進国による共同プロジェクトに他ならない。
PBL(パフォーマンス・ベースド・ロジスティクス)にせよ、その後発表されたPSM(プロダクト・サポート・マネージャ)政策にせよ米国政府が構想するF-35を含めた次世代型兵器システムはLCC(ライフサイクルコスト)のうちO&S(運用維持)部分を大幅に低減させ開発製造などの初期コストと同程度(1:1)にすることで産業界の協力と自主努力を要請するものとなっている。
これは従来型航空機のようにシステムを「近代化」させるアプローチと異なって、全体論的に当初から兵器システムやアセンブリ、部品およびコンポーネントのサポートを管理し、即応性を達成するために必要なあらゆるコンポーネントをシステムに組み込ませた設計思想となっているのである。そしてその結果、メーカーであるLM(ロッキード・マーチン)社をプライムとした共同国の企業連合(これをチームJSFと呼んでいる)との長期契約を通して、ユーザはいわゆる航空機を取得するのではなく、エアシステムを取得するという新しい概念を擁立させたのである。
F-35は基本的にシステムとしてのリスクを低減させるために開発当初からPBL契約によりライフタイム調達や長期契約などの努力が求められている。こう考えてくると従来システムとの違いは寿命が嵩むごとに増加する従来型の運用維持コストに比べ毎年一定のコストで管理するという考えに立っている。
そしてこれにより即応性(Readiness)の向上、ロジスティクス領域(Footprint)の削減および応答時間(RT)のスピードアップなど従来の航空機とは違った概念をもつものとして次世代型あるいは5世代型ロジスティクス・エアシステムといわれる所以である。言いかえれば初期コスト(開発や導入コスト)は高いが運用維持コストを抑えるべく徹底した管理体制を敷く考え方である。
■不測の事態における即応性の維持
ところでF-35はオートノミック・ロジスティクス(AL)と呼ばれる自律型あるいは自動制御型といわれるロジスティクス構想を開発当初から織り込んでいるが、このオートノミクスとは人間で言えば暑ければ汗を流し、寒ければ筋肉を縮込ませる自律神経のような働きをF-35ロジスティクスに持たせている点が注目される。
そこで本題のALGSのALでもある、ALとは不測の事態における即応性の維持を意味しており、F-35に必要な機能、運用パラメータ、形態管理、保守、管理、予防措置およびヒューマンファクタなどF-35エアシステムに必要なすべての諸元を集約したALIS(アリス)と呼ばれる自律型ロジスティクス情報システムのもと、SCM(サプライ・チェーン管理)や世界中に配備されたLM社を中心としたチームJSFのデポを通じて、常時不測の事態に即応する体制をユーザに提供するという概念に基づいている。
その結果、ALGSにはF-35エアシステムに関与する情報システム(IS)や乗員や整備員教育、代替部品、技術データやその他支援装備品が、開発当初からすべてパッケージとなり組み込まれており、これらをPBL契約(これをPBAという)という成果主義による契約形態でLM社を筆頭にした世界に分散したチームJFSが請け負うというものである。そしてこれによりいついかなる場合においてもALGSは即応性において最適能力を発揮するように構築されているとしている。このALGSシステムには主に次の4つのプログラムが組み込まれている。
■F-35高度支援プログラム(Highly Supportable Aircraft)
開発設計の段階から信頼性を高め、保守や修理を軽減させる措置や予知プログラム、また乗務員や整備員に対する健康管理プログラム、などが組み込まれている。
■システム支援プログラム(Support System)
全世界に広がるサプライチェーン・システムや知能保守管理プログラム、電子統合技術データ閲覧システムや教育システムなどのF-35エアシステム全域を年間365日体制で支援するプログラム体制。
■装備品支援運用プログラム(Support Equipment Operation)
F-35の機体からあらゆる装備品製造の支援プログラム、フライト・テスト、装備品管理、装備品の改良など装備品運用に関わる支援を年間365日にわたっておこなう。
■自律型ロジスティクス情報システムプログラム(ALIS)
ALGSを全世界にわたって計測可能に、また配備するためのエンタープライズ・ソリューションに基づく情報システム、
その結果、契約業者であるLM社はユーザとのPBL契約を通じて従来のように行為(Activity)に対して対価を受けるのではなく、成果(Performance)に対して受けることになる。
ところでこのPBL契約における成果とはどのように考えたらよいのだろうか。それはユーザが要求する成果因子(メトリクス)に基づいて判断されることになる。
■PBLを形成するメトリクス
ここでいうメトリクスとはPBLの成果を測定する因子のことで、これをどのように設定するかはユーザの重要課題となる。PBL契約は全てを契約業者の責任とするものであり、ユーザではない。しかしユーザにおいてさらに重要なことは成果を表現するメトリクスの策定にある。このメトリクスの選択はそれによりPBLの成否が判断されるだけに大変重要であるが、いずれにせよPBLを簡単且つ測定可能な要素にしなければならない。
つまりユーザは装備システムの信頼性や充足性あるいは納期短縮や在庫縮小などユーザにとって重要な要因を契約業者の成果によって簡単に測定できるメトリクスとして予め策定しておかなければならない。そもそもPBLの主目的が事前に計画した装備システムのMR(装備システムの即応性)の確保とTOC( トータル・オーナーシップ・コスト )削減の実現にある限りメトリクスはこのように設定された目標を簡単且つ測定可能なそして識別されたものでなければならない。
PBL策定における重要な点のひとつとして目標を達成できるかどうかを事前にリスク評価する必要がある。そこで各メトリクスではこれらのリスク・レートを設定し、ハイリスクやミドルリスク、ローリスクを定義し、識別している。PBLではリスク管理を徹底させ、例えば契約業者のシステムや活動を通して調査・分析をするなどリスク・ベース・アプローチの策定もまた重要な側面となっている。一例としてF-35に策定されるメトリクスは即応性や信頼性、保全性、可用性等のほか、航空機可用率 ,任務可能率、ロジスティクス領域等数多くの成果因子の設定が求められている。
■即応性(レディネス)への挑戦
ところで米国が即応性(レディネス)をスローガンとして最優先させる理由は世界の安全保障への挑戦を持続させるためにその政策とプログラムを劇的に変え、調整してきたことが挙げられる。米軍が自らの任務を実行できないなら米国民は米軍を疑い始め、また米軍は即応しないと米国が世界情勢に対して受け身となり、予測できない展開や攻撃を受けることになると考えているからである。
例えば米軍が作戦域に移動し、展開するのにかかる時間や一度に実行しなければならない任務、そしてこれらを持続するために従事する時間の長さなどを定義し、測定し、評価し、反映し、対処しなければならないという考えに立っている。適切な軍隊の配備、近代化した設備、持続性等ロジスティクス活動の手段と装備品が即応性に適うことで人員を訓練したり、動機づけることが可能になる。
その米国防総省( DOD )が韓国防衛事業局( DAPA )に対してマテリエル・レディネス( MR )に関するプレゼンテーションを行ったことは特筆すべきことであった。MRとはすべての装備システムの即応性を持続しておくスローガンである。このMRを韓国に対して行ったことは米国の東アジア政策で如何に韓国に対して期待しているかがよくわかる。
その後の韓国はLM社との共同開発によるT-50型ジェット訓練機など米国政府との協力でハイテク技術を中心とした防衛装備品輸出の開発に余念がなく、また沖縄米軍の全F-15は大韓航空がPBLあるいはPSMによるパートナーシップ契約を取り交わし、また最近では韓国空軍の全F-15戦闘機がボーイング社とのPBL契約を通じて、SCM(サプライチェーン)を韓国最大のロジスティクス企業である現代グロビス社に委ねるなど凄まじい勢いである。
■F-35は最大のPBLプロジェクト
このようにロジスティクスの基本理念である即応性を具体化させるプログラム要素がPBLである。PBLが大きな成果を挙げているのは米国が掲げる即応性に対して最も経済的且つ効果的な手段であることに他ならない。PBLはDODが21世紀当初から主に航空機システムの即応性を最適化するために、運用維持コストを大幅に低減させ、産業界の協力と自主努力を要請した新しい取得形態となった。
その運用実績は最大のPBLプロジェクトといわれるこのF-35を含めてすでに200を超えている。しかしPBL成否の要因は成果を定義したメトリクスにある。コスト削減は重要なテーマであるが成果を持続させ装備システムの即応性を如何に最適化させるかがより大きな課題となっている。
よく言われる言葉にPBLは結果を取得するもので資源を取得するものではない。またPBL契約は全てを契約業者の責任とするものであり、要求元ではないということである。そこではコスト削減を図ることは結果において契約業者の興味を失わせ、あるいはパフォーマンスを持続できず、強いては目標とする即応性の最適化が図れない原因となる場合があることを知る必要がある。
■求められるわが国ロジスティクス体制の変革
次期主力戦闘機にF-35を選択したことはわが国がロジスティクス能力の向上に大きな変革を与えることになった。近年、防衛省はわが国独自のPBL導入ガイドラインを公表したが、これは取得改革のひとつとされる民間委託の拡充への取り組みにも通じるもので、わが国防衛政策の実情に則した契約手法と考えられている。そこでPBLは上記の通り成果の達成に対して対価を支払うという21世紀型の契約手法として今後とも多くの事例を手がけることになると思われるが、あくまでもPBLはロジスティクス・プログラムのひとつである。
そこでこのF-35の導入はステルス性を含む卓越した機能面によりわが国の防空態勢の強化につながることはもちろんであるが、ロジスティクス面においては、上記の通り世界最大のALGSプロジェクトの産物であり、ライフサイクル・コスト削減の実現と先進のALISを含めたロジスティクス・プログラムを取得することが非常に重要となる。時代はもはや装備システムにロジスティクスをパッケージ化したライフタイム・システムの取得を標榜しているからなのである。
しかしながら、わが国にはいまだにロジスティクスの概念が育たない。PBLやALGSを兵站や後方支援といった言葉で訳させることは避けなければならない。現代のロジスティクスには明確な定義付けがなされており、その定義を支える多くの因子(メトリクス)はまさに即応性を計測可能な数値として具現化し、成果(Performance)させなければならないとしている。PBLが成果主義と称するのはまさに成果を目視できることに他ならないからだ。その意味においてロジスティクスはそれが軍事目的であれ、非軍事であれ、また災害救助であれ、目的は違っても共通した理念が存在している。そしてわが国こそロジスティクスを必要としている国なのである。
このたびのF-35エアシステム導入をきっかけにNCSのTier2取得に向けた体制づくりを一刻も早くおこなうことが求められ、また一方では欧米を中心としたTier2国による新しい世界標準のデータ品質管理基準に則った装備品データベース構築の研究に着手しなければならない。そのうえわが国の防衛事業を推進させ、これら対外諸国と競い合っていくためには韓国のDAPAのような新しい組織体系も勘案しなければならない。そしてこれらの問題を放置することは今後のわが国防衛産業界の行く末を大きく左右することになり、近い将来に必ず起こるF-35の運用維持体制における諸外国企業群、とりわけオーストラリアや韓国といったアジアの先進ロジスティクス工業国の介入という不測の事態を招く要因となることは火を見るより明らかである。
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