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【F-35装備品の全てにNSNを】

2013.12.1

-米国政府がNATOフォーラムで表明ー

NATOの信頼すべき筋からの情報によれば米国NCB(国家類別局)は全てのF-35戦闘機の装備品にNSNを付与、登録すると表明した。F-35はわが国が2016年から配備を予定している次期戦闘機である。これがどういう意味を持つのか、またわが国にどのような関わりをもつのかについて解説する。これを機会にNSNやNCBについても是非知ってほしい。(DCメール2013年12月1日 No.354)

■F-35装備品の全てにNSNを
今月11月初旬、NATOコディフィケーション・フォーラムがデンマークのコペンハーゲンで開催された。NATOコディフィケーション・フォーラムとはNATO諸国を中心に世界の66カ国が一堂に会して各国の防衛装備品の共通化を図り、またNATO装備品管理システムであるNCSの問題点や各国NCBからの報告の場になっている言わば年次総会である。なおNCBとは各国の防衛装備品システムを維持管理する組織で国家類別局とも称されている。なお今回のフォーラムは世界30カ国余のNCBのトップが集まりわが国からも参加している。
このフォーラムの報告のひとつに米国NCBトップからFー35装備品のすべてにNSNを付与、登録するとの表明がなされた。そこで、このことがどういうことか、またこのことがわが国にどのように関わるのかを解説する。
そもそもFー35に搭載される装備品はすべてALGSの中のALISと呼ばれるFー35装備品情報システムで管理されすべてがメーカのパーツ番号で登録される。Fー35は知ってのとおりPBL契約として民間企業が全面的に請け負うものであり主要国である米国政府も装備品管理にはタッチしない。
しかしFー35はわが国を始めとする多くの国が導入を決めている軍用機である。軍用機は通常自衛隊のように軍の補給処など国の施設を使い、また要員も官側で賄って維持管理する。しかしFー35はPBL契約に基づきCLS(コントラクタ・ロジスティクス・サポート)と呼ばれ、すべて民間主導で賄われる。F-35装備品は民間がメーカ・パーツ番号で管理しNSN番号の付与は必要ないという立場をとってきた。
ところが米国NCBによれば実はここに大きな問題がありNSNを付与、登録する必要があるいうことが表明された。
米国NCBによればこのCLS体制の欠陥はいままでのPBL契約でかなり指摘されてきたと言う。なかでも最大の問題は装備システムのユーザや配備先が紛争国あるいは関係国の場合、CLSは機能しないことが明らかにされた。民間製のロジスティクス・システムでは現地物流・配備・装備・整備が法的にできない問題が浮上したのである。
米国ビジネスを熟知している者であれば誰もが知ってることだが、米国議会は紛争当事国に駐在するあらゆる米国民間人や企業の帰国を命じる権限を有しており、いざとなれば強制的に撤退させる。だから米国企業との取引には必ず不可抗力条項というものが存在し、紛争による免責条項が織り込まれる。例えば現実問題としてイランやエジプトなどは紛争地域として法的に民間業者は立ち入りができない状況が表面化したとされている。
米国政府はこの様な事態を防ぐためにFー35の装備品には当初からNSNを保険として独自に付加することを決めたのである。NSNが付加されるということは即ち、国が物流・配備・装備・整備を可能とするいうことである。そしていざ有事というときは国が民間に変わり維持管理できるということである。NSNを付与する(登録をする)ということはそういうことなのである。
これによりNSNを登録する各国のNCBはF-35装備品のすべてにNSNを付与することでいかなる事態に対しても維持管理を可能とした。ただしFー35は今後の問題であり、あくまでもPBL契約によりLM、PW、BAE、LLなどの民間企業がCLSを運用しALGSやALISをもって装備品を管理することが基本であり、メーカ・パーツ番号による維持管理体系であるが、米国等は将来の保険として装備品にNSNを付与、登録することにしたのである。
これにより今後、FLISやNMCRLにF-35装備品が追加されることになるがその詳細については明らかにされていない。
ところでこのNSN対F-35問題は米国においてはDLA対JPO問題として永年調整されてきた経緯がある。米国防総省(DOD)の中にありこの2つの組織は対立する軸にあるからだ。そこでNATOはNCSの立場からF-35のPBL契約の窓口であるJPOに対して上記のような代替装備品の不確実性を挙げ、注意を喚起してきた結果、NSNの必要性が認められたとのことである。
そのほかNSNを推進するDLAやNATOなどのロジスティクス部門はNSNを将来は民間分野にも押し広げようとする運動を展開している。NATOはNOTD(eOTDのNATO版)と呼ばれるNSN登録品の電子取引制度をとりあげグローバル化を旗頭に世界の共有化を意識的に推進させている。確かにNSNに埋め込まれた多数のロジスティクス・データ(管理特性値・イメージ情報・保管・価格・代替品一覧など)を保有した36カ国におよぶ1700万件のNSN、代替品では3000万件を超える装備品DBは世界に類例がない。新しくTier2国になったロシアでも世界で共通した民間製品の取引を行うべきだとしてこのeOTDを高く推奨している。
■ところでこの装備品のNSN付与がわが国のF-35に将来的にどのように影響するかは不明である。 が、注意をしなければならない。それはFー35の運用維持がPBL契約において賄われるということが上記のようなリスクを生じ、いざというときのリスク管理すなわち法的整備や回避策をあらかじめ検討しておくことが重要である。
そもそも国家がその国のあらゆる装備品をNSN体系に移行するというのは同盟各国との共通性を高め、共同管理の一元化を推進することである。そしてその効果はいざ有事という時に効力を発揮するものである。 だから米国やNATOはそのために各国にNSN管理体制を求めているのである。つい最近モロッコがアフリカ諸国で初めてのTier2(ティアツー)国となったが、そこにはNSN装備品体制に移行することで同盟諸国とのシステムの共通化、装備品の共同運用を可能にし、いざというときにはNATOを含む加盟国と全域で装備品システムの補完ができるメリットを採択したといえるだろう。
そこで改めてわが国の現体制を考えると2年前にTier1国としてNCSに参加はしたが、いまだにNATOシステム(NCS)とは双方向な関係にはない。すなわちいまだにNATOシステムとは統合はしておらず、米国を含む同盟各国との装備品システムの相互補完ができるメリットを享受していない。そこで現状の装備品システムを見る限りいざという時にわが国が独力で何をどこまでできるのだろうかという漠然とした不安と焦燥に駆られるのは決してわが国だけではなくこれら同盟諸国も同様であるということを知らなければならない。
         
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