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【日米同盟とNATO】

2014.8.1

ーわが国のNATO連携とアメリカの思惑ー

まだわが国はマスコミも含めて近年のNATOとの結びつきを偶発的なものとは思わぬもののそれほど必然的とは受け止めていないようだ。しかし筆者はグローバル・ロジスティクスの観点からまさに時の流れを痛切に感じられずにはいられないのである。それは7年前に書いたブログの通りでこれを読むにつけ米国が先導するグローバル化への波が粛々としてその輪を広げ、そしてわが国にもようやく辿り着こうとしているのがよくわかる。そこで今回はそのブログを改めて紹介するがNATOとの連携強化がこれからのわが国がいわゆる”普通の国”として幅広く国際社会との共通化、一元化、相互運用性などを推し進める原動力となって欲しいものである。(DCメール 2014年8月1日 No.370)

■NATO連携強化とアメリカの思惑
2007年5月1日、日米外務・防衛担当閣僚いわゆる2プラス2による記者会見の席上で当時の米国防総省(DOD)長官は(日本は)今後ともオーストラリアやNATOとより密接な関係を築いてもらいたいとの発言があった。グローバル・ロジスティクスを標榜する筆者としてはNATOとオーストラリアは共に装備品システム(NCS)においても米国と一体化を成し遂げておりまた国防標準化分野(DSP)においても既に緊密な連携を築いていることを熟知している。そしてこうした枠組みの中でわが国が連携することこそがまさにアメリカの思惑なのである。
 
■DOD長官による日本とNATO協力に関する発言(2007年5月15日号ブログから)
2007年5月1日にワシントンで開かれた日米外務・防衛担当閣僚、いわゆる2プラス2による記者会見の席上、ゲーツ長官は次のような発言をして日本のNATOとの広範な協力を唱えた。
 
The four leaders also discussed the importance of strengthening ties to other countries, such as Australia, and achieving broader cooperation between Japan and NATO, Gates said. Aso noted that today’s meeting also provided an opportunity for the U.S. leaders to reaffirm their commitment to defending Japan and deterring possible threats.(American Forces Press Service)
 
これを日本のマスコミは次のように報道した。
日米両政府は1日午後(日本時間2日未明)に開いた外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)で、豪州やインド、北大西洋条約機構(NATO)などとの協力を強化する方針を確認した。4閣僚は会議後、共同記者会見し、麻生太郎外相は北朝鮮情勢などに対応するため「日米と豪州、インドなどアジア太平洋地域の協力強化が重要だ」と指摘。ゲーツ国防長官は「日本とNATOとの広範な協力を実現する手段も模索していく」と述べた。
 
ここでDOD長官の「achieving broader cooperation between Japan and NATO・・」を日本のマスコミは「日本とNATOとの広範な協力を実現する手段も模索していく」と報道したが、言葉の上ではachieving
とは模索の段階を超えて達成する段階に入っていることを読み取る必要があろう。なお、日本政府の公式声明文では以下のとおり達成するとしている。
 
北大西洋条約機構(NATO)の平和及び安全への世界的な貢献と日米同盟の共通戦略目標とが一致し、かつ、補完的であることを認識しつつ、より広範な日本とNATOとの協力を達成する。そこで思い起こすのは筆者が前年(2006年)に聴講したDOD標準化総会においてDODはオーストラリアやNATOとの標準化統合の実績を発表したことである。
 
すでに知られていることであるがアメリカはDSP分野においても対外諸国向けのJoint Program(統合化政策)やInteroperability(相互運用性)が実績を上げ始めている。ただアメリカでさえもこれら対外諸国向けの統合化政策は言葉で言うほど簡単ではないことを痛感した。
 
昨年NATOとの正式調印がおこなわれDODとNATOの標準化政策が統合され数多くのDOD政策がNATOの標準化政策の遅れに歯止めをかけたとされている。これはすでに周知の事実であるがイラク戦争をはじめとする多くの米軍との共同戦線においてNATO軍における物資や後方支援の実態がまことにお粗末であった。そこでアメリカはNATOとの協調体制の強化のためにDODとNATOの標準化政策の統合(共通化)を強化し「てこ入れ」を図りその具体的な成果について報告があった。
 
なかでもSTANAG(NATO標準化文書)の強化、MILスペックとの連携や相互運用性、NATO加盟諸国の国家規格や民間規格との連携の強化を図った。NATO事務局の担当者らの出席のもと、改革された事例が多数紹介された。米国はこれらの教訓と成功例において今後の他国との標準化政策を米国主導のもとに展開することが大いに予測される。現在DODの標準化政策の実務部門はDSPOであるがDSPOには国際担当部門が設置されており、各国間との連携・調整が行われている。
 
また米国はNATO標準化政策に深く関与しまた貢献しているとしている。JSBワーキング・グループが命題を与え新たに変革された標準化要求に対する戦略提案を掲げたとしている。JSBはNATOに参画する同盟諸国に対して数々の支援策を提供するとしている。そして「標準化こそがほとんどすべての国々や同盟国にとって重要である」と提言している。また米国はNATOとは別にもうひとつの重要な同盟国グループを維持している。それがABCA連合(America, British, Canada, Australia Coalition)である。
 
一方ABCA連合による標準化政策は米国、イギリス、カナダ、オーストラリアの各国が協調して防衛標準化政策の運用と実践をおこなうもので新たにニュージーランドも加わり、今回はその活動内容が紹介された。ABCA連合の歴史は古くすでに第2次世界大戦のさなかには米国、イギリス、カナダの協力関係が始まったとされている。その後オーストラリアが加入し、現在ではニュージーランドも加盟し、まさに英語圏の国々による最も連携を密にした標準化統合組織であり、当然ながら調達システムや認定基準などすべてのレベルにおいてアメリカ主導によるシームレスな関係を構築しているのである。
 
これらABCA連合(Coalition)は締結された4カ国標準化条約の具体的な政策について討議し連合作戦ハンドブックや指示書や組織、専門家による情報交換を行うとしている。例えばMILスペックはアメリカ国内におけるあらゆる防衛・航空・宇宙分野において利用されているが、海外諸国に駐留する米軍はもちろん、世界中の国々においても防衛・航空・宇宙分野における調達・標準化文書の基本として運用されている。
 
このことは日本においても防衛省やJAXAをはじめとして民間のあらゆる防衛・航空・宇宙産業界ではこれまで永年にわたりMILスペックを産業のコメとして有形無形に利用してきており今後も益々活用せざるをえない状況である。MILスペックを統括するDSPOは「標準化こそがほとんどすべての国々や同盟国にとって重要である」と提言しているがNATOやEU諸国との統合化を推進してきたDODにとってゲーツ長官の言う「日本とNATOとのより広範な協力」にこのような標準化政策の擦り合わせや統合が含まれていくことは否定できない事実となろう。(2007年5月15日 No.197号)
 
【参考資料】
■日本とNATOの協力
http://www.datacraft-news.com/ontopics/331.html

■NATOカタログへの道
http://www.datacraft-news.com/ontopics/332.html

■米国防総省標準化総会を聴講して
http://www.datacraft-news.com/ontopics/52.html

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