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【メーカ保護戦略とNATOカタログ制度】

2017.5.15

― 防衛装備品メーカを如何に守るか -

NATOカタログ制度(NCS)とはNATO Codification Systemのことであり、装備品に関する識別システムの国際的事業である。NCSは米国FCS(Federal Catalog System)をNATOにて採用したもので、現在では世界60カ国以上が参画し、世界最大の装備品データベースを有するシステムとなっている。このシステムで取り扱われる情報は最終製品からネジなどの一部品、また衣服や事務用品といった一般品目まで含まれており、各国国防省、軍にて調達された品目が収録されている。そしてNCS目的は多国間での相互運用性の向上にあり、現在では各国国防省の補給関係機関を中心とした枠組みの中で情報の共有がなされ、それぞれの国のあり方に基づいた運用がなされている。ところで民間企業には直接関係のない話のように思えるが、実はその影響は決して小さくは無いのである。 (DCメール 2017年5月15日 No.437)

■メーカ保護戦略とNATOカタログ制度
NCSでは「1品目=1品目番号(NSN)」が前提であり、同じNSNが与えられた各社製品は国家、組織を問わず互いに代替できることが示されている。これによって要求元では、例えば、従来利用してきたA国企業製品が何らかの理由で調達できない場合、同じNSNの下に連なるB国企業製品の調達の切り替えを容易にさせる。また製造者からすれば自社からも同様の製品を提供可能であることを示す場でもある。
一般的にこのようなデータベースに対して企業が強く期待するのは広告効果であろう。上述の通り、世界各国が参画する当データベースにおいて自社製品が掲載されることは交渉の機会を得るためには必要なことであり、特に部品や構成品を製造する企業においては、より価格的、品質的、リードタイム的理由により他国から声がかかる、または世界的に枯渇している製品の代替品として日の目を浴びる、そのようなことのきっかけとしてNCSに期待することができるのではないだろうか。
一方、 NCSで取り扱われる正確な品目情報は製造者から提供される情報に基づく。一般的に、日本企業を含む各国企業は国外企業や他国軍への商談、輸出の際に提供できる製品情報の範囲が定められているため、都度、公開の是非を確認する必要がある。これは、公開できる範囲を逸脱してしまったり、自らの持つ知的財産に関する情報を渡してしまうことを防ぐためだが、あくまで各企業が主体的に取り組むものであり、現行法に照らし合わせて判断するために時間、労力を要するものとなっている。これはNCSにおいても同様であり、製品を他国へ提供する際には並行してNCSへ収録する製品情報を別途他国提供先へ提出する必要があるが、現在では各企業の対応に委ねられているのだ。
こういった状況も運用手段によっては、国として自国産業を補助、保護するような枠組みを作る事ができる。例えば、上述の通り各企業は製品情報の提供が義務付けられ、法への遵守に基づいた提供すべき情報についての協議を行う必要がある。これは提供先にて各種技術データを元にNCS用のデータを作成するために行われるが、しかし、NCSにおける規則ではこの作業を製造元の在する国が行うことができるとされている。つまり、各企業は製品情報を他国ではなく自国担当機関へ提供することで、法の遵守に関する懸念をする必要がなくなり、また自らの各種技術データを他国へ提供することなく保護することができるのである。
正確で膨大な情報が多国間で共有され、一つの大きなデータベースとなった世界的官製システムは各国で相互運用性の向上や調達目的で運用されている。多くの国々、組織の目に触れる機会ではあるが、そこで扱われる情報は民間企業から提供されるものである。改めて、提供すべき情報、そうでない情報、またそれを制限し保護する方法についての基準を再構築する時期が近いことを感じないわけにはいかない。
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