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【新・MILスペックの常識】   

2017.9.3

【新・MILスペックの常識】―米国に見るMILスペック・キャンセル版の取り扱い方―
DODの国防標準化事務局(DSPO)は、長年にわたり米国行政府の立場から国防標準化文書として、MILスペックの編纂、管理、ならびに効率的な運用支援事業を行っている。そこでは、各行政府からの質問やまた米軍、民間企業、ならびに国際的な広がりを持つMILスペック・ユーザのために各種便宜を取り計らっている。以下は、現在運用している個別のMILスペックがキャンセルされた場合、どのような措置を講じたらよいかについてのFAQである。
Q: 主契約企業の仕様書に参照されているMILスペックがキャンセルされた場合、そのサプライヤ(下請け企業)としてどうしたらいいか?
A:主契約企業は、下請け企業などに対して、要求に対処する方法を通知する責任がある。原則として、MILスペックのキャンセルは既存の契約には影響を与えないということである。また主契約企業は、将来的な契約の場合、キャンセル文書の遵守を継続するよう指示することができる。 また主契約企業は、キャンセル文書の要求を自らのスペックに組み込むこともできる。また、あるいは代替し民間規格にそのスペックを変更することもできる。 要は政府はキャンセル・スペックをどのように処理するかについては、主契約企業に指示をしないということである。
Q:キャンセル通知は誰にでも適用されるのか?
A:キャンセル通知は、米国防総省(DoD)の各担当官に対して、適用免除(ウェーバー)がなされない限り、当該MILスペックはもはや調達に使用されないことを通知するものである。キャンセル通知は、代替文書(Supersede)を示唆することもあるが、最終的な決定は使用するユーザーに委ねられており、ユーザーは、提案された代替文書を評価し、意図したアプリケーションに適合するかを確認する必要がある。しかし民間企業に対しては、キャンセル通知はそのMILスペックがDoDによって使用または維持されなくなることを示すものである。ただし企業は、DoDの要求を満たすためにキャンセル文書を使用することを選択することができる。 また企業は、推奨する代替品がある場合、この要求または要求を満たす代替文書を使用することもできるのである。企業は、推奨されるこの代替文書は(政府の強制ではなく)あくまでも提案であることを銘記し、企業が使用することを選択した場合、その責任は企業にあるということである。
Q:現在の契約でキャンセルされたMILスペックが引用されている場合はどうしたらよいか?
A:現状の契約の場合、契約変更がない限り、引用されたスペックは、その文書がキャンセルの有無にかかわらず有効である。 なお政府の公示および契約では、DFARS条項252.11-7005により代替規格が含まれる場合がある。

Q:MILスペックが間違ってキャンセルされた場合、文書を元に戻す手順をどうしたらいいか?
A MILスペック制定部門、またはその許可を得た別の部門で、復活通知(Reinstate)の発行によってキャンセル文書を復活させることができる。しかし、DSC(防衛標準化審議会)によってキャンセルされたスペックは、DSCが最初に復活承認しなければならない。また、その他のキャンセル・スペックの復活は、DepSO(認定部局標準化室)によって承認されなければならない。逐次的に割り当てられた復活通知は、前回のキャンセル通知に優先する。復活通知の発行手続きは、基本的な文書制定(すなわち番号の取得、文書の調整)と同じである。復活手続に関する議論は、DoD 4120.24-MC5.9.10項に記載されており、またその手順フォームはMIL-STD-962Dに記載されている。
Q:MILスペックがキャンセルされたが、この文書が必要であり、状況を直すためにはどうしたらいいか?
A。キャンセルされたMILスペックを復活させるプロセスは、PA(制定部門)がキャンセル・スペックの復活承認を得るだけでよいという点を除いては、DSCの処置により復活させるのと同じである。 その形式は、MIL-STD-961Eに記載されている。
Q:別の部門がMILスペックや規格をキャンセルしたり、またその予定がある場合、どうしたらよいか?
A:まずはじめに文書を保持するためにはPA(制定部門)を納得させるか、すでにキャンセルされた場合は、復活手続きを経るようにすべきである。 この上申がうまくいかない場合、PAになるよう求めることもできる。文書の復活手続は、DoD 4120.24-M C5.9.10項に記載されている。
【解説】
現在のDODポリシーは1994年の取得改革に始まっていると言ってよい。いわゆるMILスペック改革と呼ばれたもので、不要で、重たい古い考え方のMILスペックを排除して、民間規格や成果主義を標榜したPRFスペックが誕生した。従来型のMILスペックはDODが主導し、その代わりに全てを規定した内容であった。そのために技術的に立ち遅れた問題やコストがかかり過ぎたきらいがあった。そこで政府は、新しい技術や考え方を民間から導入することで、よりやすく、効率的な考え方ー成果主義の導入に踏み切ったのである。
それが古くからのMILスペックを廃止し、新しくPRFやDTL型のスペックの台頭と、また代替文書としてSAEやASTMなどの民間規格を多く採用することとした。また、その結果、いわゆる政府主導から民間主導そして、義務化へと大きく流れが変わったといえよう。成果主義とは、経路を選ばず、結果を残せばよく、その結果、コストダウンが実現した。そしてその責任は自らが取ると言うものであった。このMILスペックのキャンセル通知は取得改革以降多発しており、新しく民間スペックの採用を提案しながらも、強制ではなく、しかしその責任はメーカーに預ける、いわば民間主導型のPBL契約にも通じる、米国政府の取得改革の原型であるといえよう。
このFAQで紹介したとおり、キャンセル・スペックは、DODがそのMILスペックを作らない、使用しないという通知であり、「使ってはならない」とは言っていないという。むしろ使うための復活(Reinstate)申請や民間企業による採否とその責任を問うことで、民間主導体制に切り替えてきたことが大きな変革と言える。キャンセル通知の際に明示される、民間規格への代替通知についても、強制(Mandatory)ではなく提案(Suggestion)であり、最終的な決定は民間企業に委ねている点についても
もはや成果主義(Performanse Based )による実利の取得となっている。
しかし、今回は論じてはいないが、2001年の同時多発テロ以降、DODにおいて行き過ぎた成果主義に対する懸念が生じたことは間違いが無いことで、2005年には特例無くしてMILスペック運用ができる通達を出し、MILスペックの再活用(Revitarization)をすることで、運用分野において民間規格との差別化を図っていることも事実である。
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