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【NATO太平洋地域物品便覧システム会議の東京開催】

2017.11.9

弊社では、NATOカタログ制度(NCS)について当ブログでもたびたび紹介してきたが、ここで改めてその概要を紹介する。
NATOカタログ制度(NCS)は米国カタログ制度(FCS:わが国でもWebFLISで知られる)が母体である。装備品ひとつひとつに共通の13桁による番号(NSNという)をふることで、世界中の国々が共通した装備品を使用することができ、コスト削減や緊急の際の代替品や代替メーカ情報を提供する世界最大の装備品サプライチェーン・データベースとなっている。またこのNSNはこのNCSとFCSの2つの制度に共通した装備品識別の最小単位である。
米国政府は始め、NATOを啓蒙し、導入することを奨励した。そして現在では世界各国への啓蒙活動や共通システムの設置をすべてNATOに任せるようにした。その結果、今やNATO諸国のみならずアジア、アフリカ、南米諸国など世界の63カ国で採用されるようになった。
わが国は従来この制度に加盟はしていたが、NSNの登録には至っておらず、従って他国との装備品システムの共有化は実現していない。しかし装備移転のみならず世界の平和維持、災害救助活動等には必須の事案であるだけに、このたびこの世界標準システムの本格的導入が実現することになった。
NSNは13桁の番号が付与され、物品名、識別データ、管理コード、や性能データなど多数のロジスティクス情報が組み込まれている。NSNの数は米国だけで800万件、NATO全体では1800万件を越す膨大なデータ量となっている。
このNSNの最大の特徴はなんと言ってもNATO加盟国や非加盟国の装備品製造メーカにより生産される装備品、例えば航空機部品から需品に至るまでの互換品や代替品情報が埋め込まれている点である。その結果、製品の数はNSNの数倍に昇り、3600万件を越すと言われている。(数字はNATO調べ)
ところで、わが国でもお馴染みの米国WebFLISはFCSを母体とした米国装備品のための米連邦政府ロジスティクス情報サービスである。またNATOによるNMCRLは世界の装備品閲覧が可能なNATOロジスティクス情報サービスであり、装備品識別システムとして世界中のユーザによって閲覧することができる。
前述のようにNSNは13桁の数字をもつ独特な番号制度からなっている。これにより欧米を中心とした共通社会では同一装備品はすべて識別統合され、同一NSNの元に集約されている。即ちNCSを運用する各国政府ではNSNを通じて世界の共通装備品を閲覧し、取得調達を行っているのである。
NSNの頭の4桁は製品分類コード(FSC)と呼ばれ、また後ろの9ケタはNIIN( ニン )と呼ばれ、その中の最初の2桁は国別コードになっている。例えば米国で登録されたNSNは00あるいは01が付与される。またわが国の国別コードは30が与えられダッシュ30(-30)と呼ばれるが、現在までNSN登録をしていないためダッシュ30のNSNは存在しない。
またNSNの事例として、ある米国製の陸上車両のガスケットの代替品がドイツのダイムラー社製や英国のBAE社製となって掲載されている。同一のNSNとは、もちろん材質や形状、寸法はすべて同一である。これにより例えば米国製のガスケットが枯渇したり、納期に間に合わない場合、ダイムラー社やBAE社のガスケットが取得されるわけである。このようにロジスティクスのグローバル化はもはやすべての装備品を共通化し、共有して即応性や廉価性を追求することとしているのである。
第二次世界大戦では、個々の国々はもちろん、国内でも陸海空では同一物品に異なる名称が付けられていた。当時これらの国では同一物品を見極めることは難しく、同一名称による物品を共有することはほとんど不可能であった。また命名が異なるために、同一物品ではなくなり、重複する状況を生むことで、ムダが生じ、戦費も益々増加した。
このように各々の国や機関が異なる名称で装備品を呼んでいたら、必要な際に別の国や機関から同じ物品を識別して移動させることは不可能である。そこで米国は類似在庫品の増加を抑制するために、詳しい装備品特性を比較することが不可欠であるとした。 これがNSN概念の創始である。
NSNは電話番号とよく似ている。6240-00-357-7976 。最初の4つの数字は補給分類(FSC)として、例えば、6240は電灯用のFSCである。FSCは蛍光灯や白熱灯、水銀灯およびナトリウム灯のように同一物品をグループ化するために使用されている。また次の2ケタは国別コードとして、取得した装備品にNSNを登録した国を示している。そして残りの7ケタはNSNに連続して割り当てられる固有のコードとなっている。
NSNには装備品を定義するための広範囲なロジスティクス・データが埋め込まれている。これらのデータには、品名、メーカー部品番号、代替品データ、物理的性能特性、梱包データ、特殊取扱データ、保管データ、在庫期間データ、廃棄処分データ、その他管理データである。そしてNSNのライフ・サイクルにわたってメーカーの移動や変動、部品番号の変更、その他装備品の支援やロジスティクス・データや特性に影響する最新情報を登録するために常時データ更新されるのである。
NATOが提供するNMCRLなどロジスティクス情報の最大の目的は、取得が世界のいたるところでいつでも、どこでも迅速に行なわれることで、装備品の欠落時間を短縮できることにある。が、本当の価値とはNSNに取り込まれた各種要素データにより、在庫の確認、保存期間の識別、交換・代用可能な供給物品の識別、利用可能な代用品の最大限使用、および個別に取得した価格・納期情報の提供により取得予算の最適化、運用システムのライフ・サイクルを拡張し、設計、製造および修理プロセスのためのサイクル・タイムの改善、 機密情報を保護し、多数の調達業者の登録、重複物品の識別援助などが最適に行なえることである。
言い換えると、NSNの最も重要で最も遠大なメリットは、取得要求から保守、そして廃棄に至るまでのライフ・サイクル管理を提供するということにある。 NSNを集積したWEBFLISやNMCRLを通じて世界的に使用され、NSNはもはやロジスティクスの国際語と言われるようになった。
今やNSNはトータル・コスト・オブ・オーナーシップ(TCO)の実現を具体化し、装備品の初期コストに加えてランニング・コストを含めた総合コストの削減を可能する戦略的な概念として、今後益々進化を遂げるものとして期待されている。この米国に端を発した装備品取得に纏わるNSNの総合コスト概念はNATO諸国や国連(UN)における装備品取得のオプティマム・ツール(最適ツール)として世界最大の利用者を抱えるまでに膨れ上がっているのである。
さて、わが国が本格的にNSNを取り込むまでには、解決しなければならない問題が待ち構えているが、装備移転やTCOを掲げるわが国防衛装備品行政にとってNSNの運用は避けては通れないデファクト・スタンダードであると言われてきた。
同会議では、わが国はTier 2(ティアツー)と呼ばれるNATO諸国と同様に、共通した概念と共有する装備品を持つレベルにできるだけ早期に達成するよう検討を始めたことを表明した。それはまさしく装備移転事案を具体化し、各国との共同研究や開発、しいては装備品サプライチェーンの共同運用に寄与するものと断言できる。また、UNにおける平和維持活動や災害救助活動等において他国の装備品と共有化できることは、さらなる国際貢献に繋がるものとして大きく期待されているのである。
なお、太平洋地域でのティアツー諸国としては、既に韓国やオーストラリアを筆頭に、シンガポール、マレーシアといった近隣諸国が率先して活動を行っており、特に装備移転事業などにおいては目覚しい成果を挙げているが、近い将来わが国も参画することで、わが国の品質の高い防衛装備品が世界中で利用される日もそう遠くないこととなった。

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